【橋立多美】寺は檀家の支援で成り立ち、葬式のお布施などが収入源だ。檀家の戸数が少ない寺の住職たちの生活は苦しく、「墓じまい」による離檀や、継続的に布施や寄付を求められる檀家制度に背を向けた「寺離れ」が経営難に拍車をかける。副業で生活を支えつつ、コミュニティーのなかでの寺の役割を見つめ直したいと、小中高生向けの集いを実践している寺がある。
つくば市谷田部の明超寺の副住職大内崇久さん(40)は、「見栄と世間体で行われていた葬式は寺経営の屋台骨だった。いまは仏事の簡素化で僧侶の出番の少ない葬儀のかたちが広がった」と話す。さらに「老老介護の世帯で収入がない檀家さんの葬式は一式15万円で執り行った。高齢化でこうしたケースが多くなると寺は立ち行かなくなる」と本音を漏らす。
寺の経営安定には檀家数500戸以上とされる。檀家の数が多いほど豊かな収入源があるということになる。不特定多数の参詣者を引きつける京都や奈良などの有名寺院を除き、多くの寺は檀家の確保に苦悩する。同寺の檀家数は350戸。ここ5年の間に墓じまいで檀家5戸を失った。
「宗教法人は非課税だから儲かる」とされるが、布施などは「住職の所得」ではなく「宗教法人の収入」。ここから諸経費を差し引いたものが住職の手取りになる。檀家の少ない寺の住職は妻子を満足に養えないと「二足のわらじ」をはいている。住職には公務員の兼職が認められており、教員を副業にする住職が多い。
大内さんは10年前に中学の教員を辞め、現在は僧侶派遣業者に登録している。派遣先は車で片道1時間程度の北関東一円だという。派遣の仕事で大内さんは意外な発見をした。
「初め、派遣サービスを選ぶ人は寺と縁を切るなど事情があり、儀式で仕方なく呼ばれたと思っていた。ところが熱心に法話を聞いたり相談を持ちかけるなど、信心深い人が大半を占めることに驚いた」。今は生活のための手段ではなく、僧侶の義務として車を走らせるそうだ。
◇時代に即した寺を模索していく
大内さんは8年前に小学生対象の「子供会」を組織した。餅つき大会や寺でのお泊り会、夏季と冬季の寺の大掃除など伝統行事を中心に、バーベキューや花火大会など子どもの喜ぶ活動を盛り込んでいる。少子化で子どもの数は減ったが30人近い子どもたちが集まる。
子供会を巣立った中高生は「ティーンの会」に属して子供会の運営メンバーになる。また夏休み期間中は、静かで涼しい本堂下の広いフロアを開放して「寺子屋」を開いている。
取り組みから垣間見えるのは、子どもを介して地域の人々が集うコミュニティーの場を作り寺の役割を考えたい、そして寺と縁のない子ども世代に寺のありのままの姿を知ってほしいという大内さんの思いだ。
一方、葬儀や墓建立の手順がわからないという意見に応えてマニュアルを自作して檀家に配った。「仏事の手引き」には葬儀から四十九日法要までの流れや作法をまとめた。「お墓の手引き」には墓地使用の規則や墓石の種類、墓じまいの流れを記載している。
「これからは檀家になる必要はなく、必要なときだけ僧侶が関わるシステムが増えると思う。やれることをやり、できないことは時代に即したやり方を模索していく」と大内さんは語った。(葬送シリーズおわり)