【橋立多美】地域共同体が担ってきた葬儀は近年、葬祭業者に代替されるようになり、会場は自宅から斎場へと移行した。迎えた高齢化の現在は、家族葬や直葬など従来とは異なる葬儀スタイルを選択する家族が多くなった。長年葬儀をサポートしてきたセレモニースタッフに、つくばの葬儀事情を聞いた。
葬儀は「家」から「個」へ
農業者の組合組織の農協(JA)は「JA葬祭」として葬儀事業を展開している。JAつくば市谷田部から葬儀運営を委託されている葬祭業者、城東ユニオン企画推進室長の齋藤尚美さん(60)。「こすもす谷田部」の名称で地域の葬儀を受け持って40年になる。
入社当初は集落の組合員が寄り合って行う自宅葬が一般的で、喪主と組合が決めた葬儀委員長、寺の3者が葬儀の日程を決めた。
当時は間取りの広い和式の家が多く、庭に面した室に祭壇をつくり、縁側に焼香台を置いた。弔問客は庭に列を作って焼香した。料理は集落の女性たちが作った。齋藤さんは「弔問客の駐車スペースがなくて苦労した」と振り返る。
通夜から火葬、告別式まで執り行うことができる市営斎場「つくばメモリアルホール」(同市玉取)が1999年に完成。5年後に同JAの斎場「JA谷田部つくばホール」(同市榎戸)ができると自宅葬に陰りが見え始め、現在は全組合員が斎場を利用している。
遺体が運び込まれる斎場は迷惑施設として地域で反対の声が上がる。JA谷田部つくばホールは田んぼに囲まれた立地に建てられ、「俺たちのために造ってくれた」と地域に受け入れられたという。
高齢化による変化もあった。昔からのしきたりを重んじ、葬儀の手順を決めていた葬儀委員長たちが高齢化して力を失くし、持ち回りとなった。葬儀委員長の存在感が薄くなり、喪主が葬儀を自分で決めるようになった。齋藤さんは「葬儀が『家』から『個』に移り、これが家族葬を生んだ」と話す。
家族葬とは知人や近隣住民に知らせず、家族や親族、親しい友人で小規模に行うこと。弔問客の接待に追われず落ち着いて故人とのお別れができる。
昨年実績の約3割が家族葬
「メリットばかりではない」と齋藤さんはいう。葬儀が済んだことを知った人から「我が家の葬儀に来てくれたのに参列できず、(香典の)借りが返せない」といざこざが起きたり、遺族宅の敷地の雑草を非難されるなど、地域の風当たりが強くなったケースがある。
齋藤さんは家族葬を希望する遺族には「近所の人や知り合いに故人がお世話になってきたと思う。ほんとに家族葬で大丈夫か」と何度も念を押すそうだ。
家族葬であっても一般葬と同じ祭壇や棺が使われ、寺への布施や戒名料もかかる。一般葬なら親類や近所からの香典で葬儀費用と相殺できるが、参列者の少ない家族葬は遺族が葬儀費用を自前で払うことになると斎藤さんは指摘する。
こすもす谷田部は一般市民の葬儀にも対応し昨年の葬儀実績は約200件。このうち家族葬は61件、葬儀を行わず火葬だけを行う直葬は18件あった。市営斎場またはJA谷田部つくばホールでの葬儀となるが、全体の6割が火葬場が併設されて利便性の高い市営斎場を利用している。
葬儀の現場にはハプニングもあるようだ。齋藤さんが経験したのは、弔問客への挨拶に自信がない喪主が葬儀直前に雲隠れしたこと。もう1つは葬儀で無人の遺族宅に空き巣が入り、喪主が葬儀中に帰宅したこと。急きょ親族に替わってもらうことで切り抜けたという。
齋藤さんは「葬儀はやり直しがきかない。どんな葬儀の形式が望ましいか、葬祭業者が薦めるサービスが本当に必要か、よく考えて契約してほしい」と結んだ。
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