火曜日, 4月 28, 2026
ホーム土浦【土浦駅前「本屋」座談会】㊤ 駅ビルと近隣で進む「本のまち」づくり

【土浦駅前「本屋」座談会】㊤ 駅ビルと近隣で進む「本のまち」づくり

土浦駅ビル・プレイアトレ土浦に5月末、体験型書店「天狼院書店」が出店し、県内一の規模の市立図書館、関東一の売り場面積がある古書店と、次世代の書店といわれる新刊書店が土浦駅前に集まった。本離れや書店の撤退がいわれる中、過去から未来までを見通せる「3つの知の発信拠点」が駅前に集まったことは注目される。土浦市は、人口減少や少子高齢化問題を抱える地方都市だ。本を扱う3業態が連携して土浦で何ができるかを、市立図書館の入沢弘子館長、つちうら古書倶楽部の佐々木嘉弘代表、天狼院書店の三浦崇典店主が語り合った。司会はNEWSつくば理事長の坂本栄。

図書館はまちづくりにも貢献

駅前に図書館と古書店と新刊書店ができました。同じ本を扱っていてもそれぞれ業態が違うので、横のつながりをつくり、(みんながうまくいく)ウィンウィンの関係ができないいかと思い、この座談会を企画しました。まず、お三方に自分のところの売り、これが自慢だということを話していただき、そのあと、3者でどういったコラボが考えられるか、アイデアを出してください。私はアマゾンの電子本と宅配を多用しているので、現物の本を扱う書店や図書館が、ネット書籍や本のネット注文をどう見ているのかにも、関心があります。その辺もうかがいたいと思います。最初に、それぞれの業態の特徴を教えてください。

入沢 土浦市立図書館は県内で3番目に古く、今年で創立95周年になります。延床面積は県立図書館を抜いて茨城県内で一番大きく、5120平方メートル。開館して1年7カ月ですが、これまでに91万人の方にお越しいただきました。この数は図書館業界の中ではかなり早いようで、来館者の多さで評価をいただいています。

全国的に見ても、図書館が古くなり建て替えを検討している自治体が多く、加えて地方都市の駅前が衰退しているという、共通の課題があります。それを解決するために、図書館でまちを活性化できないかと、駅前に図書館を移す自治体が多くなっています。土浦の図書館も、本来の公立図書館としての機能のほか、まちづくりに貢献するという使命が与えられています。私たちはいろいろな取り組みを考えながら、この両輪で図書館を運営しています。

古書倶楽部の購入と販売は10対1

続いて、つちうら古書倶楽部の佐々木さん、お店の特徴をお願いします。

佐々木 うちが普通の書店と違うところは、お客さんの蔵書の買い取りが大きい比重を占めていることです。バブル経済期は古本屋があちこちにあり、土浦にも5~6店ありましたが、ほとんどつぶれてしまいました。私のところのお客さんは、茨城県南のほか、東京や神奈川からも来ますが、本を整理したいという方が多いです。つまり、古本の買い取りが中心で、店で買ってくれるお客さんはガタ減りしています。

アマゾンなどの本の通販や、ネットに載らない戦前の本、特に江戸とか明治時代の古い本とかを扱うことで対抗しています。

買い取る古本と販売する古本は、どういった比率ですか。

佐々木 圧倒的に仕入れが多いですね。だいたい10対1です。古本屋の組合があって、買い取った本のうち、土浦で不用なものは東京の交換会に出します。茨城の場合は水戸にありますが、各都道府県にも古本市場があり、毎月交換会が開かれます。

うちの場合、34年前に自宅で古書店を始め、それから駅前のイトーヨーカドー土浦店(2013年閉店)の中を借りて5年やりました。ヨーカドーが撤退するとき、本をどこに移そうか悩んでいたら、顔見知りのビルオーナーから「うちに入ってください」と言われ、東京、神奈川、福島の古本屋仲間約20人に声を掛け、今の店を立ち上げました。駅前のここ「パティオビル」に移って7年目になります。

土浦の天狼院はオーソドックスな店

続いて、天狼院の三浦さんです。本業界では実物本の販売が落ちているのに、どうして新刊店を出す決断をしたのですか。

三浦 私のところは、池袋で2013年9月にオープンしたのが1店目。その時に掲げたのが「リーディングライフの提供」です。本だけでなく、その先の体験も提供する、次世代型書店をつくろうと立ち上げました。東京、京都、福岡の店はセレクトショップの形をしています。つまり(ジャンルを絞り込んだ)セレクトした本を置く店のことですが、僕はもともとそういう書店はやりたくなかった。時代に逆行していると言われますが、5月末に開いた土浦店のようなオーソドックスな書店をやりたかった。

ということは、土浦店は昔風の本屋ということですか。

三浦 オーソドックスです。60坪の店に、売れ筋の新刊、コミック、参考書、雑誌、文芸書、文庫、新書、実用書、児童書の売り場があります。もちろん、体験を提供するのは得意なので、記事の書き方を教える「ライティングゼミ」とか、写真の撮り方を教える「フォト部」などの企画も持ってきてはいますが…。

でも土浦でやりたかったのは、一般の新刊書店です。お金もかかるし、もうかりませんが、やるからには勝算はあります。目指しているのは、寿命100年時代に、そのまちの知を担う書店であること。もうけるのではなく、存続させること。これが土浦店のコンセプトです。

―参考までに、ほかの天狼院の店の形を具体的に教えてください。

三浦 京都祇園の店は町家を改装した40坪で、坪庭もあります。普段着姿の舞妓さんも来ます。外国人のお客さんも多く、売り上げの半分が外国人客で占めています。併設のカフェも人気です。本はセレクトしており、源氏物語の英訳版などインバウンド向けが売れています。スタッフには本好きを投入していて、京大の文学部出身者や本を書いている人もいます。

福岡の店は自習室カフェ、「いつまでいてもいい書店」です。クリエイターや勉強する人が1日中いて、カレーとか豚汁も売っています。

池袋は4店が散らばっているのですが、(書店ではない)カメラ技術を習得するスタジオや、ビジネス書専門の店もある。池袋は様々な発信基地、放送局みたいなイメージがあります。本店の東京天狼院は、部室のようなたまり場になっています。

その地のニーズに応え、その地その地で店の形が違うということですか。

三浦 すべてカスタムメードです。最初に掲げたコンセプトには「リーディングライフの提供」だけでなく、「iPS細胞のように自在に進化する」というのもあります。お客さんの欲望によって形が変わっていくということです。今の時代、どこに行っても同じというのは無理です。土浦は高校生が多いということなので、これに合わせて変化させていきます。現在は第1形態です。ゴジラみたいに第5形態までいきます(笑)。

高校生を活字中毒にしてしまおう

入沢 土浦は高校が多く、特別支援学校を入れると10校あります。昼間、土浦に来ている高校生は9000人ぐらいいる。駅前に図書館が新築移転して大きく変わったのは、高校生の利用カード(登録者)が旧館時代の82倍になったことです。図書館で勉強するだけでなく、移転前に比べると、6倍近く本を借りるようになりました。

三浦 ということは、僕らのミッションとしては、今の段階で「高校生を活字中毒にしてしまえばいい」ということですよね。(笑)

土浦店は高校生を念頭にカスタマイズした方がよさそうですね。

三浦 そうなると思います。土浦一高をはじめとして勉強熱心な高校生が多いと聞いています。難関大学専門の参考書も入れてほしいとご要望をいただき、なるほどと思いました。土浦店ではここを伸ばせばいい、ここを削ればいいというのが見えてきました。あらゆる方向に伸ばせる可能性がある。今は夢想段階です。

時代逆行と言われるかもしれませんが、土浦では本の配達も始めようかと思っています。今はネットで買うと言われていますが、自分の父親はネットを使わないとか、スマホを使わずガラ携でいいという世代が結構いますから。(つづく)

▶入沢弘子(いりさわ・ひろこ)=土浦市立図書館館長兼土浦市民ギャラリー副館長、土浦市広報マネジャー併任。1962年生まれ。

▶佐々木嘉弘(ささき・よしひろ)=つちうら古書倶楽部代表。茨城県古書籍商組合組合長。1954年生まれ。

▶三浦崇典(みうら・たかのり)=天狼院書店店主。ライター、編集者、劇団主宰、映画監督、大学講師。1977年生まれ。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

おおい、ツバメよ 来てくれないのか《鳥撮り三昧》12

【コラム・海老原信一】築48年の我が家。古くなり傷んではきたが、それなりに心地よく暮らせている。玄関の右隅上方にベニヤ板の棚が取り付けられている。設置してから7~8年は経つが、ツバメに来てほしくて用意した営巣用棚だ。 だが来てくれない。なぜなのかと思いながら、毎年見ては寂しくなる季節がやってきた。家主はそれなりに心地よく暮らせているが、ツバメには気に入ってもらえないようだ。 庭先の電線に止まっては、ジュリ、ジュリと鳴く姿は見えるのに、あと3メートル先のこの物件で営巣してほしい。確かに、巣作りに必要な泥を採れる場所がこの近くにはない。田んぼとか、湿地のような湿った土がないと、巣作りは難しいようだ。諦めるより仕方がないのか。 巣立ち間もない子ツバメ 17年ぐらい前、花室川中流域でのこと。川の途中に石を敷き詰め、流れに変化をつけてある場所が一定の距離ごとに設置されている。その一つの下流に橋が架かっており、暑い盛りの季節、その上に通い詰めたことがある。 敷き詰めた石が流れを変化させると、そこにはいろいろな堆積物が集まる。ごみなどもあるのだが、小さな生き物たちもおり、魚がそれを目当てに集まってくる。その魚を狙ってサギが飛来する。敷石の上で水面を見つめ、くちばしを水中に打ち込み魚を捕らえる。 空振りになることの方が多い。だからだろうか、納得するまで頑張る。似たようなものかと思いながら、観察と撮影を続ける私。 それにしても暑いとつらくなり、少し動いてみようかと川下側に歩き出したとき、1本のヨシが揺れるのに違和感を覚えた。おや何だろうと視線を凝らす。そこに、3羽の巣立ち間もない子ツバメが止まっている。 1本のヨシに3羽も止まれるなんて、鳥の体は軽くできている。ヨシも細い見掛けとは違って柔軟なんだと、感心をしながら眺めていた。急に子ツバメたちが騒がしくなったと思ったら、すぐに親ツバメが現れた。 くちばしの先には虫を捕らえている。そうか、そういうことか。親の飛来をいち早く察知し、我先に食べ物を受け取ろうとアピールする子ツバメたち。そこに遠慮は存在しない。親は公平に与えようとするのだろうか、それともアピール度の強い子に傾くのだろうか。 希望を捨てない家主 自然界のおきては私たちが考える以上に厳しく、それでもうまく収まる柔軟さもあると思わせる一幕を見ることができた。そこへ誘導してくれた暑さにも感謝だ。 そんなやり取りを身近で見たいと設置した玄関先の棚。自身がツバメならどうだろうか? ここでしばらく暮らしてみようと思える場所なのだろうか? それでも希望を捨てたくない家主なのだが…。(写真家)

柵が倒れ女子児童けが つくばカピオ前広場

26日午後1時30分ごろ、つくば駅近くの同市竹園、市の複合施設、つくばカピオ前の広場で、広場に設置されたスロープと広場を隔てる鉄製の柵に女子児童(8)が手を掛けたところ、柵がスロープ側に倒れ、児童は足などを打ってけがを負った。 市芸術文化推進課によると、倒れた柵は高さ79センチで、長さ4.35メートルにわたって3ブロックが倒れた。女子児童は市内から家族と遊びに来ていて、柵に体を向けて手でにぎっていたところ、柵と一緒に正面から倒れたという。同課によると、柵に腐食はみられず、溶接部分がはがれたことが原因とみられるという。 柵はカピオと同じ1996年に建築された。指定管理者のつくば市文化振興財団(同市竹園)が施設の管理などを実施し、定期的に点検などを実施しているが、柵がぐらついていたなどの異常は確認されていなかったという。 市文化振興財団は、女子児童の保護者に謝罪した上、施設の点検や安全確認を改めて実施した。倒れた箇所や同様の柵がある箇所については現在、カラーコーンを設置し、近寄らないよう注意喚起する張り紙を掲示している。 市は、当該施設の点検を徹底し、安全対策や注意喚起を行うなど再発防止に努めるとしている。

障害者の余暇活動充実へ つくばで新団体スタート 

地域のネットワークで課題解決 障害者の余暇活動の充実を目指す「つくば市障害者の余暇活動を考える会」の発起式が26日、同会の実行委員会によってつくば市内で開かれ、福祉事業者や障害者のスポーツ団体、行政職員、支援者、当事者や家族らが参加した。実行委員会には、市内で障害者の余暇活動や運動・スポーツ活動、生活支援に取り組む福祉専攻科シャンティつくば、障害者のスポーツ事業や余暇活動支援を行う一般社団法人ウルラ(ULULA)、NPO法人ユアフィールドなどが名を連ねる。今後も行政を含めた地域のネットワークづくりや課題解決に向けた取り組みを進めていく。 2025年初頭、関係者間で課題を共有したことをきっかけに準備を進めてきた。世話人の一人、ウルラ代表で筑波大学准教授の澤江幸則さんによると、障害者の余暇を取り巻く環境には、家族の負担の大きさ、当事者のニーズに合った福祉サービスの不足、活動の場や情報のマッチング不足などが課題に挙げられ、特に「(活動の)場」「移動」「時間」の3点が大きな壁となっているという。 同会は現時点で実行委員会形式でのスタートとなるが、今後は行政や支援団体、当事者や家族などの活動への参加を想定している。発起式には会場定員の60人を上回る約80人の申し込みがあり、オンライン対応も行われた。澤江さんは「関心の高さを感じる一方で、その期待に応える責任も感じている」と述べた。今後は6月に初のセミナーを予定しており、当事者や家族、相談員の声を反映しながら、具体的な施策づくりを進めていく考えだ。 余暇は労働と同じくらい大切 発起式で澤江さんは「余暇とは単に余った時間ではなく、人生や生活を豊かにする重要な要素」だと強調した。かつては労働中心の価値観が主流だったが、現在はワーク・ライフ・バランスの考え方が広がり、「労働と同じくらい余暇が大切な時代になっている」と指摘した。余暇活動が心身の回復や人とのつながりを生むとする理論にも触れ、「社会との接点を広げ、人生を豊かにするための大切なツール」だと語った。 一方で、障害者の余暇を取り巻く環境には課題も多いと指摘する。澤江さんによると、当事者家族への調査では、外出や余暇の満足度は「満足している」と「満足していない」がほぼ半々だった。 活動の場自体は一定数存在するものの、情報が十分に共有されておらず、活用されていないケースも少なくない。移動手段についても既存の支援制度だけでは対応しきれていない現状があると話す。また、施設職員の勤務体制などの影響で、平日に比べて休日の活動が乏しい点も課題とされる。 こうした状況を受け、同会は、行政、民間団体、支援者、当事者らが緩やかにつながる「ネットワークづくり」を重視する。澤江さんは「一つの主体だけで解決できる問題ではない。みんなで考える必要がある」と語った。 今後の取り組みとしては、定期的なセミナーやワークショップの開催、ホームページやSNSを活用した情報発信、寄付の呼びかけなどを計画する。多様な関係者の参加を促し、「市全体で障害者の余暇活動を支える仕組みづくり」を目指す。 また、学校卒業後の学びの機会が限られる現状を踏まえ、生涯学習の視点から余暇の充実を図る必要性も強調する。「学びの場を広げることが、余暇をより豊かなものにする」と話した。 課題出し合えたのは重要な一歩 実行委員会の世話人で、シャンティつくば代表の船橋秀彦さんは「地域で地道に取り組んでいる人たちが初めてこういう場で交流し合い、障害のある人たちの余暇活動に関する課題を出し合えたのは重要な一歩。さらに、そこに行政の参加があったことは大きい。シャンティつくばでも余暇活動を進めてきたが、より一般に広げるためには行政も含めた取り組みが必要になる。市が余暇活動に視点を当てた取り組みである『余暇活動支援事業』を始めたことは高く評価しており、障害のある人たちの余暇活動の発展につながる第一歩になると感じている」と語った。(柴田大輔)

片隅で咲く恋心、ままならない感情 《マンガサプリ》6

【コラム・瀬尾梨絵】SNSという広大な海から生まれ、多くの読者の心を静かに揺さぶり続けて書籍化に至った名作をご存知だろうか。それが、蒔(まき)先生による「おもいこみのノラ」(KADOKAWA、全1巻)だ。コンパクトな巻数の中に、私たちが忘れかけていた誰かを思うことの、みずみずしくも少しだけ苦い感触が、驚くほどの密度で閉じ込められている。 本作の舞台は、さまざまな動物たちが人間のように二足歩行し、服を着て生活している世界。その中でも、人生のモラトリアムとも言える大学が物語の中心となる。 主人公は、犬のノラ。彼女は派手なタイプではなく、どちらかといえば周囲の喧騒(けんそう)から少し離れたところでひっそりと、自分の日常を過ごしているような雑種犬。そんな彼女が胸の奥で温めているのは、同じ大学に通うオオカミのアルへの淡い恋心だった。 動物たちの世界といっても、そこに描かれるのはファンタジーな冒険ではない。講義の空き時間、学食での何気ない会話、放課後のちょっとした寄り道。私たちがかつて通り過ぎてきた、あるいは今身を置いている「学生生活」そのものの空気が、蒔先生の柔らかな描写で描かれている。 最大の見どころは、タイトルにもある「おもいこみ」というキーワード。恋をすると、私たちはどうしても臆病になり、相手の何気ない一言に一喜一憂し、深読みしすぎて自爆したり、逆に都合の良い解釈をして舞い上がったりと、自分でも想像することができない自分を垣間見ることになる。 ノラが抱える恋心は、まさにその「おもいこみ」の連続。自分の気持ちを伝える勇気が出ないからこそ、心の中の独白(モノローグ)は饒舌(じょうぜつ)になり、相手への思いは純度を増していき、その一方通行の熱量が、読者の胸を締め付ける。 動物たちが織りなす不器用な日常 ノラを取り囲む友人たちの描写も秀逸だ。それぞれに個性があり、悩みがあり、彼らなりの生活がある。動物の姿を借りているからこそ、キャラクターたちのささいな表情の変化や、耳や尻尾の動きといった「言葉にできない感情」がよりダイレクトに伝わってくる。それは言葉の解像度を超えた、非常に豊かな感情表現と言えるだろう。 全1巻という構成は、まるで1本の良質な短編映画を見終えた後のような、すがすがしい余韻を私たちに与えてくれる。物語は劇的な大団円を迎えるわけではないかもしれないが、ノラが過ごした穏やかで少しだけ切ない日々は、読者自身の記憶にある「大切な誰か」の面影を呼び起こさせてくれる。 「最近、心がささくれ立っている」「誰かを好きになる真っ直ぐな気持ちを思い出したい」。そんな方にこそ、この「おもいこみのノラ」を手に取ってほしい。動物たちが織りなす優しくて不器用な日常が、あなたの心の中に、温かな火をそっと灯してくれるはずだ。(牛肉惣菜店経営)