【相澤冬樹】我が子への読み聞かせをアレンジしているうち、お話はいつかオリジナルになり、やがて文章につづられてネットデビュー、作品を積み重ねてついには公募のコンテストで「大賞」を射止めるまでになった。美浦村在住、土浦市内で事務のアルバイトをしている主婦、伊東葎花(いとうりつか=ペンネーム)さんは、「グリムの里いしばし」(栃木県下野市)主催の第19回グリム童話賞で大賞に選ばれ、2月9日の表彰式に臨む。
同賞は400字詰め原稿用紙10枚以内という小品が対象の公募コンテストで、童話作家の登竜門的な存在になっている。伊東さんの受賞作は「コハク日記」。亡くなった愛犬の代わりに少女に贈られたロボット犬の話。講評では「童話として温かさを感じるだけではなく、日本の伝統的な精神性も感じさせ、審査員の共感を集めた」という。
伊東さんは同賞にこれまで7年連続で応募してきたが、入賞歴すらなかった。毎年「月」や「山」などのテーマが設定され、戌(いぬ)年の昨年は「犬」がテーマだった。「犬は飼ったことがないから、リアリティーをもって描けない気がしてロボット犬を視点の中心に据えた。書き上げてみると手応えを感じた」そう。だから新年に入って、主催団体から通知が届いたとき、「やっと入賞できた」と確信して封を切ったのだが、中から「大賞に選ばれました」の紙片が出てきてあっけにとられたという。例年以上の450点もの応募があったと聞いた。
今、23歳になる一人娘の幼少時、枕元で読み聞かせをしたのが童話づくりの原点。自分なりにアレンジして作り替えているうちに「お母さんの話の方がおもしろい」と大喜びしてくれた。娘が小学校高学年になると、文章にするよう勧められ、創作をブログで発表するようになった。仕事のない日や家事の合間に時間を見つけては執筆するスタイルで、約10年間書き続けた。ブログは文章だけのショートストーリーだが、これまでに発表した作品は900本にも上る。
ブログにはファンがつき、コンテストへの応募や出版を勧めるものも少なくなかった。「公募ガイド」誌で小説家の阿刀田高が選者となっているコーナーに応募し、4回ほど最優秀賞をとるなどしており、日本児童文学者協会編「百物語5―奇妙のとびら」(文渓堂)にも作品が収められている。「皆さんの応援で少しずつ長編にも挑戦している」とさらなる意欲を見せている。
今回の受賞作は、2月10日から下野市グリムの里で開催の「第38回企画展」会場で展示され、入賞作品を掲載した「作品集」は電子書籍(pdfファイル)として販売される。今のところ紙媒体での出版計画はない。
▽グリムの里ホームページ:http://www.grimm-no.net/index_p.htm
▽ブログ「りんのショートストーリー」:https://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/