土曜日, 1月 3, 2026
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「卓越大学院」に採択 筑波大 改革を先導、高度な専門人材育成

【田中めぐみ】文科省の公募型新事業「卓越大学院プログラム」に筑波大学(つくば市天王台)の「ヒューマニクス学位プログラム」が採択された。卓越大学院は産官学それぞれの部門をけん引する卓越した博士人材を育成するために文科省が7年間補助を行う。大学院の教育改革を先導する事業だ。

今年4月から公募が行われ、申請した大学は38校54件、うち13大学15件が採択され、競争率は3.6倍だった。

採択を受け筑波大は、来年4月からヒューマニクス学位プログラムを開講する。生命医科学と理・工・情報学の両分野で高度な専門性を備えた博士人材の育成を目指す。同プログラムは、ヒトの生理・病理の解明と快適生活を実現するためのバイオテクノロジーや医療福祉技術分野などの教育、研究課程だという。

1人の学生に2人の指導教員

柳沢正史機構長

同プログラムのコーディネーターは、睡眠に関わる神経伝達物質オレキシンの発見者で、同大国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)機構長の柳沢正史教授が務める。柳沢機構長に話を聞いた。

—4倍近い競争率を勝ち抜いて採択されたのは、どのような点が評価されたからと感じていますか。

柳沢 筑波大学は睡眠研究を含むライフサイエンスも、コンピューター分野の計算科学研究センターも有名なので強みを生かした。また、IIISのみならず、筑波研究学園都市の他の研究所、企業も教育・研究に参画しやすいという地の利を生かし、プログラムを作り込んだ。医学を中心とするライフサイエンスと理・工・情報の融合は、日本が遅れている分野でもあり、日本がめざす「Society5.0(ソサエティーゴテンゼロ)」=メモ=実現のため今後重要視される。AI(人工知能)普及の戦略とも重なり評価されたのではないか。

—ヒューマニクス学位プログラムの特徴は何ですか。

柳沢 一番の特色は、1人の学生にライフサイエンスと理・工・情報の2人の指導者を立てる完全ダブルメンター(指導者)制をとっていくということ。一つの博士論文を2人の指導教員の下で書く教育体制で、両分野にわたり共同研究をしなければならないという縛りの中、研究を進めていく。

医学・薬学、生物系の学生が入ってきた場合は理・工・情報系の基礎を学んでもらい、逆に理・工・情報系の専門の学生には医学や生物系のことをきちんと学んでもらう。両分野で指導教員を1人ずつ立て、学生が来たことによって共同研究を始めてもいいし、既存の共同研究に学生が加わるのでも構わない。今までばらばらだった異なった分野の人たちを結びつける体制を作ったことが評価されたのではないか。

—文科省の公募要領で補助金の漸減策(4年目から半額、7年目に3分の1になる)が示されました。戸惑いはありましたか。

柳沢 戸惑いどころかほとんど怒りを感じている。補助金の一部は、優秀な学生への教育研究支援経費やTA(ティーチングアシスタント)、RA(リサーチアシスタント)による学生への給料など、安心して研究に専念できる環境を作ることに使う予定だ。しかし、学生は年度ごとに増えていくわけで、学生支援に要する経費は減るのではなく増えていくはず。また、初年度の補助金が一番多いが、初年度はまだ学生が入学しておらず、学生にとって最も重要な教育研究支援経費への使用もできない。

さらに、補助金はたった7年で終わる。博士課程は5年一貫なのに、5年間フルに支援できるのは2期生までということになってしまう。世界に向けて卓越した人材を育成する事業であるのにこうした財政状況は残念に思う。

共同研究にハードル感じない人材

—学位プログラムでは、学際教育の先進的モデルとして「プレアドミッションプログラム」(大学と大学院の枠を取り払った一貫教育システム)を構築するとあります。具体的にどのようなプログラムなのでしょうか。

柳沢 例えば医学の人であれば、希望すれば学部生からでも理・工・情報学の要素を学ぶことのできるシステムのこと。同時に、学際的な研究に関心を持つ優秀な学生・社会人を見出し、能力をさらに伸ばして本学位プログラムへの進学を促す役割もある。このシステムを利用するなどして複数分野の知識を身につけ、博士論文研究の基礎力があるかどうかを測る試験(Q.E.)の認定を受けて博士論文を書けば、早期修了も可能だ。専門外の分野も学ぶわけなので大変だが、専門家と同じレベルを要求しているわけでは無く、専門家と対等に話せる言語を獲得することを目的としている。例えば、工学系出身者でも医者と医療について語ることができる能力を身に付けてもらい、共同研究にハードルを感じない人材を育成したいということだ。

eラーニング(主にインターネットを利用した学習)システムの構築も行う予定で、そのための経費も計上している。eラーニングの導入により、講義がよく分からなければ繰り返して視聴できるし、時間が無い時も分割して視聴し勉強することができる。また、プレアドミッションプログラム(入学前学修)での活用も考えており、筑波大生だけでなく外部の学部学生や社会人も興味があればアクセスできる。つまり、興味がある人材を逃さず養成できるということだ。

サイバーダイン支援で自走化

―サイバーダインヒューマニクス学位プログラム(仮称)を設置し、国の支援終了後は完全自走化を図るとありますが、ロボットスーツで知られるサイバーダイン社(つくば市学園南、社長・山海嘉之筑波大教授)に資金を提供してもらうということですか。

柳沢 山海社長に協力してもらい、将来的には学位プログラムを移行し自走化する予定だ。今回の「卓越大学院プログラム」採択も、企業との連携をうたい、実現性が高いことが評価されたと思う。

―博士号取得者の就職率が学部・修士卒よりも低いという現状があります。博士離れが進む中での人材育成についてどのように考えていますか。

柳沢 他の分野は分からないが、ライフサイエンス分野にとってそれは真実ではない。「ヒューマニクス学位プログラム」の特徴は、例えば工学や理学の分野で博士号を取ったとしてもバイオの分野に行くことができる。またバイオ系の企業もそういう人材を欲しがっている。工学系の企業でも生命医科学の知識があるということは強みになると感じている。

―来年4月からどのような学生を受け入れたいですか。

柳沢 医・歯・薬の6年制の学部出身者や臨床医を含め社会人も大歓迎で、工学系出身で何年か実務経験がありもう一度勉強したいという人、企業から派遣されてくる形でも構わない。医学・生物系出身であれば工学、情報学的なセンス、AIなどについても学び、博士論文を書いてほしい。逆もまた然り。そういう研究をしたいという人に来てほしいと思っている。

※メモ
【Society 5.0】仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する新たな社会のこと。2016~20年度の第5期科学技術基本計画で日本が目指すべき社会のあり方として提唱されている。

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2026年は午(うま)年。日本中央競馬会(JRA)美浦トレーニング・センター(トレセン)がある美浦村に、引退した競走馬のセカンドキャリアを模索し、馬耕によるワイン作りやホースセラピー、子供たちとの触れ合いなど、さまざまな取り組みに挑戦している拠点がある。 引退競走馬の可能性を広げたいと、JRAの調教師でもある大竹正博さん(56)が2023年10月に開設した。施設の設計には筑波技術大学(つくば市天久保)の梅本舞子准教授と建築系の学生らが関わり、大竹さんの夢を形にした。施設を中心に様々な活動が評価されて25年グッドデザイン賞を受賞した。 地域の人が集う 拠点は約1ヘクタールの広さで、美浦トレセンの西側にある。敷地北側に、木造平屋建ての建物が弧を描くように3棟並び、隣りに広さ約800平方メートルの砂地の馬場が設けられている。南側には約5000平方メートルのブドウ畑が広がる。拠点の名前は「ブリコラージュ」。手元にあるものを寄せ集めて新しいものを作り出すという意味のフランス語だ。 3棟の建物はそれぞれ、8畳間4部屋分(約56平方メートル)の広さで、正方形の形をしている。3棟のうち2棟は厩舎(きゅうしゃ)で、現在、競馬を引退したサラブレット4頭とポニー1頭の計5頭が暮らす。1棟は引退馬に関わる地域の人々が集うクラブハウスだ。 ブリコラージュには、元のオーナーから引退競走馬を引き取った今の所有者らが通い、馬の体をブラッシングしたり、馬場で運動させたり、乗馬を楽しんだりしている。発達障害児などを支援する放課後等デイサービス「きゃっちぼーる」を利用する子供たちが毎週1~2回来て、えさを用意したり、乗馬に挑戦したりする。地域クラブ「美浦ホースクラブ」は、土日に厩舎を掃除したり、えさを用意したり、乗馬を体験するなどしている。調教師の大竹さんのほか、近くに住む美浦トレセンの元厩務員が馬の手入れなどを手伝う。 南側のブドウ畑では10品種が栽培されている。つくば市のワイナリー「つくばヴィンヤード」の高橋学さんからブドウ栽培の指導を受けた牛久市の畠山佳誉さん(53)が、2022年から苗を植え毎年増やしてきた。引退競走馬は畑で鋤(すき)を引っ張り、横に伸びるぶどうの根を切るなど「馬耕」をする。年3回ほどまく堆肥は、つくば市若栗にある「つくば牡丹(ぼたん)園」の関浩一園長が開発した馬ふん発酵堆肥だ。競走馬の育成牧場などから大量に出される馬ふんからつくられている。 畑を耕しているのは「サモン」という名の8歳の元オス馬。2017年に北海道日高町で生まれ、19年にデビューした。12回レースを戦ったが1勝ができないまま、20年に中央競馬の登録を抹消された。地方競馬への転籍を検討したが、骨折していることが分かり引退となった。サモンの管理調教師だった大竹さんと、デビュー時からサモンをずっとひいきにしてきた美浦村の関亮子さん(52)の2人が共同所有者となって、元のオーナーから引き取った。 関さんは「サモンは人懐っこくて、ずっと応援していた」と話す。大竹さんは、サモンに馬耕をさせる際、周囲から「競走馬に馬耕させるのは聞いたことがない」と驚かれたと振り返る。「馬耕をするようになって、サモンはむしろたくましくなった」と大竹さんは目を細める。 サモンが耕した畑のブドウで2025年春、初めて赤ワインを醸造し362本が出来上がった。「綴(つづり)」と名付け、美浦村のふるさと納税返礼品にもなった。ブドウ畑を担当する畠山さんは「馬が畑を耕す『馬耕』のほかに、これからは収穫したブドウや堆肥を馬に運んでもらう『馬搬』にも取り組み、引退競走馬のセカンドキャリアを応援したい」と話す。畑にブドウの苗をさらに植えて、ワインの種類も3種類くらいに増やす計画だ。 年5000頭近くが引退 中央競馬では毎年、5000頭近くの競走馬が引退するという。馬の寿命は長いと30年ほど。引退後は地方競馬に転籍したり、乗馬クラブが引き取ったり、競馬ファンが譲り受けるケースなどがある。しかし活躍の場が用意されない引退馬も少なくないと大竹さんはいう。 大竹さんは東京都出身。父親は騎手で、子供の頃から馬に親しんで育った。麻布大学獣医学部を卒業後、北海道で働いた後、JRAの調教師になり、2009年、美浦トレセンに厩舎を開いた。18年に有馬記念を制したなどの実績がある。 調教師の仕事の傍ら、大竹さんは個人で、引退競走馬支援団体を応援するなどの活動を続けてきた。「かつて、母屋と厩(うまや)が一体になった曲がり屋で人と馬が隣り合って暮らしてきたように、人と馬が一緒に過ごせる現代版のコンパクトな曲がり屋をつくりたい」と思うようになり、2020年ごろから、馬がストレスなく過ごせる、馬が主役で人が集まる場所づくりの構想を温めてきた。 実現に向け、筑波技術大の梅本准教授らと構想を練り上げた。美浦トレセンそばの畑を大竹さんが一部購入したり、借りるなどしてブドウ畑をつくり、厩舎とクラブハウス3棟を建て、ブリコラージュが完成した。3棟の建物の骨組みには、岩手県の森林で切り出された木材を馬が運んだ「馬搬出材」を用いている。弧を描くように配置された3棟は、人と馬が常に気配を感じられるように設計されている。施設には視覚を遮る垣根などは設けず、通り掛かった人だれもが、馬がいる風景を眺められるにした。 引退馬を引き取ると通常、管理費用として1頭当たり月15万円、年間で200万円程度かかる。大竹さんは、引退馬を引き取った所有者や、引退馬に関わりたいと希望する地域住民が自ら、馬のえさやり、手入れ、運動などを手伝うことでコストダウンできる仕組みをつくり、だれもが支援の担い手となれるようにした。厩舎の清掃やえさやりをする地域クラブ「美浦ホースクラブ」代表の阿部彩希さん(37)は「一人一人、ブリコラージュに集う目的は違うが、馬を通じて、地域のたくさんの人が自分の目標に向かって活動し、協力し合う場所になっている」と話す。 人と馬が一緒に過ごす3棟の建物で構成される現代版の曲がり屋を、だれもが引退競走馬に関わることができる支援拠点として、地域にさらに増やしていくのが大竹さんの次の目標だ。大竹さんは「まずここに来て馬を知ってもらって、興味をもってくれたら」と話す。(鈴木宏子)