月曜日, 7月 4, 2022

瀧田薫

パーパスとミッション 年頭経済展望《雑記録》31

【コラム・瀧田薫】昨年の師走、「1年を象徴する漢字」が発表されました。京都・清水寺の貫主が揮毫(きごう)したのは「金」(きん)の一字でした。オリンピックの「金メダル」、大谷翔平選手が打ち立てた「金字塔」などの印象が強かったようです。 この催しは昨年で27回目。そのうち「金」という字が選ばれたのは4回目だそうです。他に複数回選ばれた字としては「災」が2回あるだけだそうですから、「金」は大変な人気です。ちなみに、この字を「かね」と読んだ例は、2016年に1回(政治と金)あるだけでした。毎年選ばれても不思議はないと思うのですが、当たり前過ぎて印象に残らないのかも知れません。 さて、お金からの連想ですが、今年の世界経済、日本経済はどのような1年になるのでしょうか。例年、新聞や雑誌が新年特集号を組み、経済の先行きを予想するのですが、筆者は「存在意義・パーパス」や「使命・ミッション」といった言葉が2022年度経済のキーワードになると予想しています。 「パーパスとミッション」は、コロナ禍で疲弊した社会や組織を立て直そうとする勇気ある人々にふさわしい言葉ではないでしょうか。コロナ禍によって、社会は多くのことを見直しつつあり、人々の意識も大きく変化しつつあります。アフター・コロナにおいて、経済活動や社会活動がコロナ以前と同じ形で復元されることはあり得ません。もし復元できると考えたとしたら、時代と社会を読み誤ることとなります。 企業も社会も、この大変化を踏まえて、未来を見据え、自らのパーパスとミッションを再構築しなければなりません。 広がる「パーパス経営」の動き

グローバリゼーションに新ルール 《雑記録》30

【コラム・瀧田薫】ダニ・ロドリック氏が「グローバリゼーション・バラドクス(The Globalization Paradox)」(2011年)を出版してから、今年でちょうど10年になります。この間、「グローバリゼーション」に関する論文・著作が数多く発表・発行される中で、この本の存在感はまだ失われていません。 この書物が発行された当時、著者は世界経済の「政治的トリレンマ」(民主主義、国家主権、グローバリゼーション)を同時にバランスよく追求することは不可能で、旗色の悪くなった国家主権と民主主義を守るために、グローバリゼーションをある程度制限することもやむを得ないと主張しました。 この主張を経済学の観点から見れば、いわゆる新自由主義的論理が市場と政府は対立関係にあると考えるのに対して、金融、労働、社会保障など、国家がコントロールする諸制度が補完しない限り、あるいは政府による再分配やマクロ経済管理が機能しない限り、市場はうまく回らず、秩序あるいは社会的安定も確保できないとする考え方と言えるでしょう。 政治学においても、国家の統治能力の向上なしに持続的な経済発展は望めないとの見方が有力ですし、ロドリック氏の考えは正鵠(せいこく)を射たものと思われます。 主権国家が新たな規制枠を用意

政治に変化の兆し? 若者の政治離れ対策 《雑記録》29

【コラム・瀧田薫】経済協力機構(OECD、先進国38カ国で構成)の調査では、2016~2019年の間、日本の国政選挙投票率は加盟国の下から5番目に位置しており、日本は先進国の中で低い国の一つとされています(FNNプライムオンライン 10月13日)。投票率が低い原因の一つは、若者世代の政治への関心の低さにあるとの指摘があります。 少子高齢化が進行する中、これからの日本を支えていく若者世代の政治離れは、この国の将来にとって深刻な問題です。これまで、政府、自治体それぞれに、若者の投票率を上げようと工夫を凝らしてきたのですが、効果はあがっていません。 そうしたなか、日立市は「全国的にも珍しい取り組み」(日立選管の小林克敏書記)を始めました。ワンボックスの公用車を「期日前投票所(投票車?)」に改造し、市内の高校を巡回して、18歳に達した高校生に投票を促すそうです。同選管は「18歳投票率を向上させることが喫緊の課題」としています(茨城新聞 10月24日)。 近い将来、自治体の中核を担うはずの若者の政治離れを放置すれば、自治体の衰退につながるとの危機感でしょう。 投票行動を助ける「ボートマッチ」

自民党新総裁誕生 この国はどこへ? 《雑記録》28

【コラム・瀧田薫】9月29日の自由民主党総裁選の結果、岸田文雄前政調会長が新総裁に選任された。岸田氏は4日の衆参両院本会議で首相に指名され、新内閣を発足させた。 岸田氏の勝因には、菅首相の総裁選不出馬宣言により自民党の支持率が回復し、それに伴って、自民党議員の次の選挙への危機感が薄れたことがあると思う。つまり、「安倍・菅氏路線」の刷新を標榜(ひょうぼう)しなくとも、衆議院選挙を勝ち抜ける見通しが立ったということだろう。 岸田氏は、総裁選出馬にあたり、安倍・菅路線の基本的な方向性は受け入れつつ、小泉政権以来の「新自由主義的な経済政策」を改め「成長と分配の好循環」を目指すと宣言した。安倍・菅路線を正面から否定はせず、部分的な修正を施しながら新味も出そうという狙いだろう。 この岸田氏の妥協姿勢が、河野氏と比較して、より「穏健」なものと受け止められた。自民党国会議員の間に、衆議院選を前にして、党内の力学を優先する余裕あるいは内向き志向が働いたという見方もできるだろう。 しかし、この総裁選の結果を受けて、この国の今後を楽観することができるだろうか。新型コロナウイルス禍もあり、この国の経済も外交も安全保障も極めて困難な状況にある。外に吹き荒(すさ)ぶ嵐を自民党の党内安定だけで乗り切れるものではないだろう。 「成長と分配の好循環」に注目

菅政権の限界と次期政権の課題 《雑記録》27

【コラム・瀧田薫】9月3日、菅義偉首相(自民党総裁)は党総裁選に立候補しない旨表明した。このところ、菅内閣の支持率が低迷し、菅総裁の再選が危ぶまれる状況ではあった。しかし、菅氏は2日、二階幹事長に総裁選出馬の意向を伝えており、その翌日の辞任表明はあまりに唐突である。コロナ禍への対処を誤って衆院解散のタイミングを失い、総裁と衆院議員の任期切れという時間的制約にも追い込まれ、まさかの「辞任」につながったものと推察する。 報道各社は、総裁辞任の第一原因をコロナ対策の失敗にあると見ている。しかし、菅政権がそうした対応しかできなかった理由は、危機管理能力の欠如とか見通しの甘さといった次元で説明できるものではない。 より深刻な理由がある。それは安倍政権の時から水面下で進行していた政府機関と党組織の劣化そして制度疲労である。自民党歴代政権を行政学の立場から「官僚主導型」と「官邸主導型」の二つに分けた場合、安倍政権が敷いた「官邸主導路線」をそっくり踏襲したのが菅政権である。安倍一強政権が、小選挙区制と人事権を武器として自民党派閥と省庁の統制・管理に乗り出したとき、その先頭に立ったのが、安倍内閣官房長官の菅氏であった。 官邸主導路線は菅政権になって弾みが付く。2020年9月、就任間もない菅首相は日本学術会議が推薦した会員候補のうち6名について任命を拒否した。現行の任命制度になった2004年以降、推薦された候補を政府が任命しなかったことは一度もない。会議側からの抗議に対して、菅氏は政府に人事権があるとの主張を繰り返すだけで、任命しない理由については一切説明しなかった。 こうした強権的な手法によって、権力側の意図が通りやすくはなるだろう。しかし、その副作用もある。官邸主導型政治によって自民党派閥の活力は奪われ、党内民主主義は後退した。また、人事権を奪われた官僚機構からは政策立案能力と実践力も失われ、忖度(そんたく)官僚のみが跋扈(ばっこ)することとなった。 まずコロナ対応に新機軸を

オリンピックと衆院選挙 《雑記録》26

【コラム・瀧田薫】古代オリンピックは、紀元前776年から紀元393年まで、1200年近くにわたって、ギリシアのオリンピアの地で行われた。この古代オリンピックと近代オリンピックとの違いは、古代オリンピックがゼウス神にささげる宗教的祭典だったことである。大会開催中、参加国は聖なる休戦(エケケイリア)を守り、オリンピアへの往還と神域における武力行使を堅く戒めた。 その結果、1200年間、戦争が原因で大会が中止されたことは一度もないという。一方、近代オリンピック120年の歴史には、2度の大戦による大会中止をはじめ、テロによる選手殺害事件(1972年)や、大国によるボイコットの応酬(1980年、1984年)があった。 西洋史学者の橋場弦(はしば・ゆずる)氏は「商業主義とグローバル資本の論理に翻弄される現代のオリンピックは、どこに向かうのか。金銭を超えた聖なる価値を、オリンピックが見失うことのないよう祈りたい」(UTokyo FOCUS 2020年4月)と述べている。 争点は財政政策(増税か減税)か? さて、衆議院議員選挙の日程だが、コロナの感染爆発中にオリンピック開催を強行した菅首相だけに、オリ・パラ会期中の選挙はないだろう。永田町では、パラリンピック後の9月6日に臨時国会を召集し、補正予算を通して、28日公示、10月10日投開票というスケジュールが有力視されている。ただし、これも「ワクチン接種」の進み具合で延期される可能性がある。

ロシアは中国に押しつぶされるのか 《雑記録》25

【コラム・瀧田薫】ソ連邦が崩壊(1991年)してから、今年で約30年が経過した。この間、ロシアは、自国の求心力を保とうと必死の努力を傾け、衰退と分裂の時代をなんとか乗り切ってきた。しかし成長と発展のトレンドはまだ見えてこない。「ロシアの現状は、外交面と軍事面では超大国であり続けているが、それ以外の領域では低開発国でしかない」というのが研究者大方のロシア評である。 ソ連崩壊前の1988年、ソ連経済は中国経済の約3倍の規模であった。しかし今日(2020年)のGDPは中国のそれの約10分の1でしかない。 6月11日、英国・コーンウォールで開かれた「2021年G7サミット」は、西側諸国が現在の中国とロシアをどう評価し、どう扱おうとしているか、検証する絶好の機会となった。今回会議の最重要テーマが「中国の覇権主義にどう対応するか」にあったことは明らかだ。ロシアについては、欧州諸国がその軍事的脅威に言及し、バイデン米大統領に認識を共有するよう要請したが、主要議題になることはなかった。 バイデン氏は、G7閉会後の6月16日、スイス・ジュネーブに立ち寄り、ロシアのプーチン大統領と首脳会談をもった。この会談はバイデン氏の方から持ち掛け、プーチン氏がその誘いに応じたものである。この流れからすれば、バイデン氏がロシアを重視しているかに見える。しかし、会談後の記者会見でバイデン氏が明らかにしたのは、「中国との覇権争いに勝つための一つの条件として、ロシアを重視する」との見解であった。 米ロ首脳ジュネーブ会談の読み方 バイデン氏は、対ロ関係において目指すのは対立の解消ではなく、対立を管理することだと言い、米国の優先事項と価値観の明確な説明ができれば、会談は成功だとも述べた。その上で「ロシアは中国に押しつぶされそうになっている」とのコメントで記者会見を締めくくった。明らかに、中露の連携にくさびを打ち込むための言葉である。

書評:ジョセフ・S・ナイ著『国家にモラルはあるか?』 《雑記録》24

【コラム・瀧田薫】この著作の原題は「DO MORALS MATTER ?」、直訳すれば「道徳も大切では?」です。書名の邦訳が本書の内容とはいささか「不適合」の印象です。「政治にモラルはあるか?」の方が、売れる本になるかどうかは別にして、タイトルとしてふさわしいでしょう。 さて、本の中身ですが、「アメリカの外交を通貫してきたモラリズム」について論じ、その上で「道義的な外交政策とは何か」を問います。本書の面白いところは、歴代米大統領(F.D.ルーズベルトからD.J.トランプまで)の外交について、「意図と動機」「手段」「結果」に分けて独自の方法で採点し成績評価したところです。 邦訳の監修をされた駒村圭吾慶大教授による、明晰(めいせき)にして含蓄に富む解説を引けば、「ナイの採点表の特徴は一刀両断の裁定ではなく、複合的視点を通じての総合評価」をしている点にあります。ただし、「試験の答案の体をなしていないものや、解答する気のないようなものについては容赦しない」ともあります。 確かに、まだご存命の前そして元大統領(どなたかは読んでいただきたい)が本書を読んでいるとすれば、さぞかしご立腹でしょう。 「グローバルコモンズ」を志向

100日目の米バイデン政権 《雑記録》23

【コラム・瀧田薫】バイデン米大統領は、就任99日目の4月28日、上下両院合同会議で就任後初の議会演説に臨んだ。これは異例の遅さである。しかし、演説は、この短期間内に上げた成果を自画自賛し、さらなる目標の迅速な達成を予告する、自信にあふれたものであった。 バイデン氏が大統領選に勝利した直後、新政権の先行きを危ぶむ声が専門家の間で大勢を占めていた。しかし、100日目現在、新政権への評価は総じて高い。バイデン政権4月時点の支持率は59%(ピュー・リサーチ・センター)と、歴代大統領と比較すると高い方には入らない。しかし、トランプ氏の39%を大きく上回った。トランプ政権末期にあらわになった米社会の分断、分裂現象が依然として吹き荒れている中にしては上出来と言えよう。 さて、演説について筆者が注目するのは、バイデン氏が「世界に背を向けた前政権の姿勢とは決別し、同盟国との国際協調路線をとる」とし、同時に、「国外でのあらゆる活動は、米国の労働者(中間層)を念頭に置いて行う。外交と国内政策の間に、もはや鮮明な線引きはない」と宣言した部分である。 実は、この宣言は、数年前に発表された「報告書」が下敷きになっている。ヒラリー・クリントン氏が2016年の大統領選でトランプ氏に敗北した後、バイデン氏が主導して敗因を分析し、「中間層のための外交政策の見直し」と題する報告書を発表。それには、「外交エリートが支配する外交政策を国民の利益の観点から見直し、衰退する中間層に対する配慮を盛り込む」ことが強調されていた。 中間層のための外交政策の見直し つまり、バイデン氏は、中間層支援策(国内政策)と外交政策を一つに組み込んだ政策パッケージを早くから用意し、大統領就任と同時に満を持して打ち出したのである。

書評「人新世の資本論」《雑記録》22

【コラム・瀧田薫】斎藤幸平氏著の本書の核心は、旧来のマルクス理解を根底から覆し、エコロジーの視点からマルクスを解釈し直し、そこからさらに進めて、「人新世」(人類の経済活動が地球を破壊する環境危機の時代)を克服する方途、さらには豊かな未来社会に至るための実践論(「脱成長コミュニズム論」)を引き出したことにある。 読後感を一言でいえば、「宮沢賢治にこそ読んでもらいたかった1冊」であるということだ。宮沢と斎藤には時空を超えて共通する一つの思いがある。 すなわち、資本主義が追求する効率、利潤、経済成長を、環境破壊、労働疎外(個人は経済活動を担う歯車と化す)そしてコモン(共同体や共有財)解体の原因であると断じ、格差や生きづらさを生む資本主義社会から脱して、豊かな人間らしい生活と環境を求めようとする、その一点において両者は同じプラットフォーム上にある。 もちろん本書の狙いは、都市の生活や最新テクノロジーを捨てて農耕共同体社会に戻ることではない。21世紀の現実と向き合い、環境危機を克服し、「持続可能で公正な社会」を実現するための唯一の選択肢として、「脱成長コミュニズム」が提唱されているのである。そのことを確認した上で、宮沢の思想を本書読解のための補助線とする方法、その有効性を指摘したいと思う。 「人間と環境」に関する新しい知見 本書に対する批判の代表的な例は、「脱成長を標榜(ひょうぼう)する文明に繁栄などあり得ない」とする主張であろう。それに対する斎藤の反論については、本書を読んでいただくとして、それとの関連で、宮沢における「定常状態」(経済成長のない均衡状態)理解について簡単に触れておきたい。

《雑記録》21 水素カーが走る近未来社会

【コラム・瀧田薫】クルマの点検でディーラーに出向くと、トヨタの水素カー(MIRAI)が展示されていた。お値段を尋ねると、「ハイエンド車で800万超です。茨城県には2台しかありません」とのこと。豪華なパンフには「酸素と水素の化学反応によって電気をつくり、きれいな空気と水だけを排出するこの究極のエコカーとも呼べるモビリティは、環境性能の高さに加え、より多くの人々に愛される、魅力的な一台を目指して開発されました」と書いてあった。しばし、水素カーが走り回る近未来の社会に思いをはせた。 現在、日本国内で二つの水素エネルギー開発プロジェクトが動きだしている。一つは、川崎重工業を中心とする企業グループで、豪州政府より補助を受け、豪州産の褐炭(かったん)から水素を製造して日本に運搬する実証実験を進めている。もう一つは、千代田化工建設が中心のグループで、ブルネイで産出される天然ガスから水素を製造し、これを液化して日本へ輸送する。つまり、どちらもそれぞれの当該国と日本との間に水素エネルギーのサプライチェーンを構築する狙いであることは共通している。 水素エネルギーの商用化を目指す上で、最大のネックはコストの問題だ。国際金融情報センター理事長・玉木林太郎氏は「投資家や企業にとって、気候変動は倫理や責任の問題ではない。損か得かの問題だ。長期の戦略を立てて脱炭素に対応していかなければ生き残れない」(日経、2020年12月14日付)と言い、さらに「脱炭素のビジネスがペイするかどうか見定めるには、CO2排出をコストとして扱う「カーボン・プライシングが不可欠だ」と指摘している。 中東石油シーライン→日豪水素供給チェーン? つまり、政府が炭素税を導入し、あらかじめ年次を定めていくら増税していくか決めておく方式である。そうなれば、水素ビジネスの側で、水素がいつごろ化石燃料に対して比較優位に立ち利益を出せるか予想ができるし、開発上の不確定要素を減らすことができる。しかし、そうは言えても、水素ビジネス同士の競争が熾烈(しれつ)なものとなることに変わりはないし、競争に敗者はつきものだ。 「脱炭素」と一口にいうが、国家も、政府も、企業も、労働者もそれぞれの立場でこの大変革の時代を迎えようとしている。地球温暖化のもたらす惨害(さんがい)を思えば、脱炭素化を避けては通れない。しかし、脱炭素で職と所得を失う人たちも出てくるだろう。その人たちの生活をどう保障するか、その一事だけに限っても、社会そして政治に課せられるコストの重さは想像を超える。

《雑記録》20 米中新冷戦か?

【コラム・瀧田薫】「米中新冷戦」という言葉がある。最近の米中関係を旧冷戦(米ソ)になぞらえているのだが、この言葉の発信源はトランプ政権で働いていた外交・軍事専門家である。 1990年代、旧冷戦がソ連の崩壊という形で終焉(しゅうえん)したとき、この人たちの先輩たちと軍需企業の関係者が「目標」を失い、ポストを失うのではないかと恐れた。そこで「テロとの闘い」という新看板を掲げてみたが、地政学的な政策目標としてはスケール不足で、軍事・外交関連予算の前年度実績を確保できそうにない。つまり、彼らはソ連という仮想敵国を失うことで、自らの存在の意義が揺らぐ、そんな事態に直面したのである。 しかし、ちょうどそのころから中国が台頭してくる。彼らからすると、それこそ「好機到来」であったに違いない。その後、トランプ氏がこの状況を大統領選挙の争点づくりに利用する。「強いアメリカ」と「強敵中国」を対峙(たいじ)させ、選挙民の危機感と対抗心をあおり、それを自らへの支持につなげてみせたのである。 筆者は、自由主義諸国(米国、EU、日本)にとって「中国は脅威ではない」などと言いたいのではない。米国であれ、中国であれ、国家というものには、仮想敵国の存在を前提として国家戦略を策定する専門機関が存在する。そして、歴史上、こうした機関が自らの存在を自己目的化し、仮想敵を求めて策動したケースが少なくない。 最近目にする「新冷戦」という言葉も、それが誰によって、また何を目的として発せられているか、よくよく吟味しなければならぬゆえんである。 バイデン政権の「戦略的忍耐」とは?

Most Read

TX延伸論議に見る つくば市の狭い視野 《吾妻カガミ》136

【コラム・坂本栄】茨城県がTX県内延伸の4方向案(茨城空港、水戸市、土浦市、筑波山)を示したことで、その線上・目標に位置する自治体が自分たちの所へと誘致に乗り出し、地元の政治家も加わって騒々しくなっています。しかし筑波山を抱えるつくば市は、TXの終始点であることに満足しているのか、特に動いておりません。 ポイントはどこで常磐線にクロスさせるか 茨城空港、水戸、土浦の各方向誘致については、「TX石岡延伸推進協議会」、「TX水戸・茨城空港延伸促進協議会」、「TX土浦延伸を実現する会」が立ち上がりました。土浦の様子は記事「TX土浦延伸へ決起集会 市民参加で競合2団体に対抗」(6月12日掲載)をご覧ください。 茨城空港、水戸、土浦への延伸ラインはもちろん別々です。しかし、石岡、水戸、土浦の主張は「空港まで延ばせ」と言っている点では共通しています。水戸の場合、まず空港まで延ばし、さらに空港→水戸を要求していますが、石岡と土浦は「うちの市内で常磐線と交差させ、空港まで延ばせ」と言っているからです。 水戸が、空港→水戸は後回しにし、常磐線で交差する駅→水戸駅(TXの一部JR乗り入れ、残りは茨城空港直通)を受け入れれば、ポイントは「どこでJR常磐線にクロスさせるか(つくば駅と空港を直線で結ぶと高浜駅のちょっと北=石岡市内=で交差)」になります。 TX県内延伸=研究学園と茨城空港の連結

斎藤さだむさんのつくばセンタービル地肌空間など 3年ぶり「写真工房」写真展

つくば市を拠点に活動する写真サークル「写真工房」(太原雍彦会長)の「2022写真工房写真展vol.19+(プラス)」が、同市吾妻のつくば市民ギャラリーで開かれている。 顧問を務める同市在住の写真家、斎藤さだむさん(73)が、つくばセンタービル1階改修工事の過程で露わになった地肌空間を撮影した写真15点を展示するなど、会員ら11人が思い思いのテーマで撮影した写真計約110点が展示されている。新型コロナの影響で3年ぶりの開催となった。 写真工房は、同市主催の写真講座に参加した有志が2002年に結成し、20年になる。会員は約15人で、毎月1回例会を開いているほか、年2回撮影会に出掛けるなどしている。 斎藤さんのつくばセンタービル地肌空間は「史(ふみ)のあかし」と題した作品だ。第3セクター「つくばまちなかデザイン」による改修過程で、骨組みの状態に戻ったつくばセンタービルの、曲線を描く天井のコンクリート地肌や、象形文字が記されているのかと見まごう太い円柱の柱の地肌などを撮影している。「地肌空間を行き来し、40年という時間に思いをはせながら撮影した」という。 写真工房の写真展の様子 会員の藤澤裕子さんは、自宅の庭に咲くヒルザキツキミソウの花や、セミの抜け殻、カブトムシの幼虫などを撮影し、写真を重ねたり、反転させたりした作品10点を展示している。「日常見る庭の植物や昆虫を、非日常的な植物や昆虫として作品化した」。

ウクライナのニュース 《くずかごの唄》111

【コラム・奥井登美子】 「毎日、ウクライナのニュースを見ていると、僕はどういうわけか、丸木さんがあのニュースを見て何を言われるか、知りたいと痛切に思うようになってしまった」 「ご夫婦で原発の絵を担いで、世界中を行脚して回っていらしたわね。ウクライナはいらしたのかしら?」 「さあわからない…。2人とも、人類の悲劇を実際に見て、絵にしたんだもの、すごい人だよ。昔、位里さんと俊さんが、2人でうちへ来てくれた日のことも、つい、昨日のように思い出してしまう」 土浦市の奥井薬局の2階で、「丸木位里(いり)・俊(とし)展」をやったことがあった。250人もの人が駆けつけてくれて、盛況だった。お2人は我が家に泊まって、おしゃべりして、家のふすまが白いのを見て、刷毛(はけ)と墨汁(ぼくじゅう)を使って、大きな絵を描いてくださった。 生前葬やったの、覚えている?

臭いやアルコール対策示すも反発の声相次ぐ つくば洞峰公園事業で県の説明会

つくば市二の宮にある茨城県営の都市公園、洞峰公園(約20ヘクタール)で進められるリニューアル計画で、県は2日、同市竹園のつくば国際会議場で説明会を開いた。県と事業者による初の説明会。つくば市から懸念の声が出ていたグランピング施設とバーベキュー(BBQ)施設の臭いやアルコール対策について、県と事業者から対策が示されたが、参加した市民からは「洞峰公園を変える必要はない」など反発の声が相次いだ。つくば市民を中心に約150人が詰めかけ、県の説明に対し、会場からは厳しい反応が相次いだ。 臭いやアルコール対策について、パークPFI事業者「洞峰わくわく創造グループ」代表の長大が計画の一部見直し案を示した。①BBQ施設を当初計画していた冒険広場から、グランピング施設を整備する野球場中央に移す②炭焼きBBQは取り止め、煙が出ないガスグリルに変更する③深夜は管理人がおらず無人になる計画だったが、グランピングエリアの管理棟に24時間、管理人を常駐させる④夜9時以降はサイレントタイムとし騒いでいる人がいたら管理人が対応する⑤グランピング施設の周囲に目隠しとなる木製の柵を設け、景観に配慮する⑥南側駐車場の拡張(127台分)は、駐車台数を減らすことも含め、樹木をなるべく伐採しないよう計画を再検討するーなど。 一方、県は、公園全体が変わってしまうわけではないこと、パークPFI事業によって県が支出している指定管理料を年間6000万円削減でき、年平均8000万円かかる体育館やプールの大規模修繕を計画的に行える見通しが立ことなどを強調した。 収支計画の開示要求に答えず これに対し参加した市民からは、グランピング施設を収益事業の柱と位置付ける計画について、収支計画の開示を要求する意見が複数出された。長大が「民間事業者として、ノウハウも含めて収支計画は出すことができない」と答えると、会場から「これでは市民は計画の妥当性を判断できないではないか」など非難の声が投げかけられた。今回の目的の一つである、老朽化する体育館やプールの改修計画についても、収支計画を公開するよう求める声が出た。これに対し、県が公開時期を明確にできなかったことから、怒声が飛び交った。 絶滅危惧種など希少動植物が生息していることが市民から指摘された問題について県は、市民の意見を踏まえつつ、今後の対応を検討したいと答えるにとどまった。