木曜日, 3月 23, 2023

瀧田薫

孤立し苦境に立つプーチン大統領 《雑記録》40

【コラム・瀧田薫】ウクライナ軍が、9月中旬以降反転攻勢に出て、ロシア軍に占領された北東部の要衝を奪還しつつある。これに対し、プーチン大統領は、9月21日のロシア国内向けテレビ演説で、予備役に対する部分的動員令(30万人の徴兵)を発動すると宣言し、さらにウクライナ東部や南部のロシア軍占領地域において住民投票を実施し、その上でロシア領に併合する意向を示した。 この演説で特に注目されるのは、新しくロシア領(クリミア半島を含む)となった地域をウクライナ軍が奪還しようとすれば、「あらゆる手段でこれに対抗する」としたことである。この「あらゆる手段」とは、具体的には何を指しているのだろうか。ラブロフ外相が国連総会の一般演説で、ロシアに編入される地域を防衛するために核兵器を使用する可能性を示唆していることと重ね合わせれば、狙いの一つは「核兵器の使用」であり、もう一つは「ウクライナに対する宣戦布告」であろう。 プーチン大統領は、これまでロシア国民を報道管制下に置き、ウクライナ侵攻が国民生活とは遠い世界の出来事であるかのように伝えてきた。しかし、今回の演説のなりふり構わぬ内容は、ウクライナ侵攻当初の楽観が根底から崩れ、ロシア軍が苦戦している事実をプーチン大統領自らが告白したに等しい。 当然、国民一般の受けたショックは大きく、ロシア国内の複数の都市で市民による反戦デモが発生し、徴兵を恐れる市民やその家族が飛行機や車を利用してロシア国外に脱出し始めているとの情報も伝わってきている。当面、この混乱が政権の土台を揺さぶるほどに拡大することはないだろう。また、ロシア軍によるクーデターが起きる可能性もさほど大きなものではないだろう。 独裁者の妄想という不条理 しかし、ウクライナ侵攻の大義、すなわちロシアの過去の栄光を取り戻し、大国としてのパワーを維持し続けるための軍事力行使は、はっきり裏目に出たというのが軍事専門家大方の見方である。それでも、プーチン大統領は侵攻をやめないし、やめられない。

ウクライナ戦争 原発砲撃の意図《雑記録》39

【コラム・瀧田薫】戦争の終わらせ方には二つの類型があるという(防衛研究所主任研究官・千々和泰明著「戦争はいかに終結したか」中公新書)。すなわち、「根本的解決」と「妥協的解決」である。前者の場合は、自分たちの被る損害は覚悟の上で、相手を完膚なきまでにたたき、将来の禍根を断つ方法である。後者の場合は、相手と妥協し、その時点での損害を回避する方法である。 どちらを選ぶかは、戦争終結を主導する側、つまり優勢な側にとっての「将来の危険」と「現在の損害」の比較考量によって決まる。同氏によれば、その際「紛争原因の根本的解決と妥協的和平のジレンマ」という視角が浮上するという。戦争の終わり方は一見バラバラに見えるが、実はどの戦争もこのロジックをたどっていることから、過去の失敗から学ぶこともできるし、眼前の戦争の終結方法を検討することもできるというのだ。 この理論の限界を指摘しておきたい。ウクライナ戦争をウクライナとロシアの戦争として限定すれば、この理論が有効な分析装置たり得る可能性はある。しかし、この戦争の影響が地球全域に及ぶことがすでに明らかになっている状況では、この理論だけでこの戦争の先行きを見通すことは不可能だ。 恐いのは独裁者の判断力喪失 そのことを断った上で、この理論による有効な分析例を一つ取り上げよう。ザポリージャ原発への砲撃をロシア側からの攻撃(砲撃主体がロシアかウクライナか明確なエビデンスは今のところない)と仮定し、これに千々和氏の理論を適用する。ロシア側が、ザポリージャ原発を砲撃で破壊し、放射能を外部に漏出させることまで意図しているとすれば、ロシアは紛争の「根本的解決」を決断した可能性が高い。 その場合、ロシアはウクライナが自暴自棄になって原発を破壊したとのプロパガンダをまき散らす。そうすれば、核爆弾を投下することなしに投下同様の効果を得られると同時に、核使用当事国として全世界から非難、制裁されずに済むと考える(ロシアの勝手読み)からだ。他方、ロシアがウクライナと西側諸国へのブラフとして、原発砲撃をしているだけだとすれば、ロシア側は、ウクライナとの「妥協的解決」を留保しているという見方ができる。

情報戦争とオシント 《雑記録》38

【コラム・瀧田薫】7月16日付の毎日新聞に、「本社オシント新時代取材班がPEP・ジャーナリズム大賞を受賞」との記事が掲載された。「PEP」とは、「Policy Entrepreneur’s Platform」の略称で、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが立ち上げた日本発の政策起業家コミュニティーである。 そのホームページには、専門性、現場知、新視点をもって課題を発掘・検証する活動を支援し、公共政策プロセスへの国民1人1人の参画を促し、政策本位の政治熟議を生み出すことを目指すとある。 「オシント新時代取材班」の受賞理由は、オシントの技術を駆使して、報道内容の精度を高めたことと、フェイク・ニュースの欺瞞(ぎまん)性を積極的に暴こうとする「報道姿勢」にある。たとえば、ロシアと中国におけるサプライチェーンの動態を取材した「隠れ株主『中国』を可視化せよ AI駆使し10次取引先までチェック」(2021年12月)や「ロシア政府系メディア、ヤフー・コメント改ざん転載か 専門家工作の一環」(2022年1月)といった特集記事が高く評価された。 ところで、オシントとは「open-source intelligence」の略語であり、公開情報を検証する情報分析手法である。 2013年に、シリア政府軍による化学兵器使用疑惑が持ち上がったとき、1人のネットウォッチャーが攻撃の日に撮影された映像や画像をネット上で収集・検証し、どのような兵器がどこから来たかを突き止めた。兵器の正体は神経ガス・サリンを搭載できるソ連製M14型ロケットであること、さらに、ロケットがシリア軍の施設の方角から発射されたことまで明らかにした。これがオシントの事実上のデビューである。

参議院議員選挙 憲法改正どうなる? 《雑記録》37

【コラム・瀧田薫】参院選(7月10日投開票)の争点を一つだけ取り上げれば、まず「憲法改正」が焦点であろう。よく憲法改正に前向きな勢力(自民、公明、日本維新の会、国民民主)が議席数の3分の2に届くか否かが話題になるが、それがクリアされれば改正がすぐできるというものではない。4党の憲法改正に対する姿勢、特に憲法9条の扱いに主張のばらつきが大きく、改正の発議に向けて4党間の意見調整ができるかどうか、見通しは立っていない。 もっとも、与党が思惑どおりの安定多数を確保すれば、岸田首相が衆院を解散しない限り、衆参議員の任期満了を迎える2025年まで、国政選挙の予定がない「黄金の3年間」がやってくる。与党内には、国論を二分するような大きな政治課題に腰を据えて取り組めるとの期待があり、発議に至るまで熟議を尽くす時間的余裕に恵まれていることも確かだ。 ところで、現時点で、憲法9条の改正を掲げているのは、厳密に言えば、自民、維新の2党のみである。自民は憲法9条に自衛隊を明記する方針であり、維新は9条に明確に規定すると主張している。公明は9条の1項と2項を堅持する方針であり、別の条項での自衛隊明記についても引き続き検討するとし、党の公約に「自衛隊を憲法上明記すべしとの意見があるが、多くの国民は(自衛隊を)違憲とみていない」との説明をわざわざ付け加えている。 国民民主は、公約で「9条は自衛権の行使の範囲、自衛隊の保持・統制に関するルール、2項との関係の3つの論点から具体的な議論を進める」として含みを残している。他方、立憲民主党は自民党改憲案に反対し早期の憲法改正は不必要としつつ、「国民の権利の拡大についての議論」に限っては積極的な姿勢を見せている。 共産、社民両党はこれまでどおり護憲の立場を貫く。れいわ新選組は、現行憲法の実践のために必要な制度と法の整備を目指すとし、NHK党は改正に関する議論を積極的に促すとしている。 安全保障をめぐる議論が活発化

ウクライナ戦争の行方 《雑記録》36

【コラム・瀧田薫】「金言耳に逆らう」ということわざがある。他人からの忠告や諫言(かんげん)というもの、たとえ正しいとは思っても、なぜか反発してしまうという意味だが、古くは、中国戦国時代の韓非の書「韓非子」に出てくる。戦国時代は治国用兵の術を説く諸子百家が活躍した時代であり、韓非もその1人であった。 日本においては「矛盾」や「逆鱗」という言葉を用いたことで知られる。彼は君側にあって諫言や忠告を口にする際、主の逆鱗にだけは触れぬようにしていたが、それでも、秦王(後の始皇帝)によって投獄され、獄中で自殺したそうだ。 ところで、ウクライナ戦争が始まってもう3カ月になる。「戦争は始めるより終えることの方がはるかに難しい」と言われるが、その通りの展開だ。ウクライナ側もロシア側も戦争のこう着化を望んではおらず、この戦争を自軍有利な形で停戦あるいは休戦に持ち込みたいとの思いは両軍に共通したものだろう。 ただ、国益を損ねる安易な妥協はできないから、交渉条件を徹底的に吟味・検討するだろう。ロシア側の検討プロセスは独裁者プーチンの決断が全てで、彼に助言する者はいても、諫言できる幕僚が存在するとは思えない。 これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領の場合は、国益だけでなく、ウクライナを支援してくれる米欧諸国の意向への配慮も欠かせない。たとえば、5月26日に閉幕したダボス会議における元米国務長官・キッシンジャー氏の発言など、不愉快ではあっても無視はできない。 キッシンジャーの提案

国連・安保理 改革が必要に 《雑記録》35

【コラム・瀧田薫】国連安全保障理事会(安保理)・常任理事国であるロシアがウクライナに侵攻した。明らかに国連憲章違反である。しかし、安保理はこれをとがめることができなかった。安保理の機能不全、この問題は今に始まったことではない。過去、何度も改革の必要が指摘されてきたが、常任理事国側の抵抗にあって実現していない。 イラク戦争時、米国が主導して安保理決議に基づく多国籍軍を編成した事例があったが、今回の対象国はイラクではなく、安保理常任理事国のロシアである。そこで、安保理決議を経ずに米軍主導の多国籍軍を編成する策も検討されたが、バイデン米大統領が第3次世界大戦の可能性を否定できないとして回避した経緯がある。 ところで、4月26日、国連総会に安保理改革案が提案された。その内容は、「安保理で常任理事国が拒否権を行使した場合、総会において拒否の理由について説明する責任を負わせる」というものだ。リヒテンシュタインが主導して起草し、米英仏のほか日本やドイツ、ウクライナなど、国連加盟国193カ国中80カ国以上が共同提案国に名を連ねた。 一方、ロシアや中国はこれに加わらなかった。総会での採択では、提案に対する投票を求める声は上がらず、総会の総意として採択され成案となった。決議の具体的内容は、常任理事国が拒否権を行使した場合、国連総会議長に対し、総会を招集し、拒否権を行使した国に説明を求めること、同時に安保理に状況報告文を提出するよう呼びかけることを義務付けるというものであった。 残念なことに、総会に出席して理由を説明するか否かは、拒否権を発動した国の判断に委ねられるという不徹底なものであり、実効のあるものとは到底思えない。 常任理事国が他国に武力侵攻するとは!

ウクライナ侵攻と核のリスク 《雑記録》34

【コラム・瀧田薫】4月1日現在、ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって約1カ月が経過した。戦況は大方の予想を覆し、混迷の度を増している。電撃戦によってキ-ウを陥落させ、傀儡(かいらい)政権がウクライナを支配する当初のシナリオは頓挫(とんざ)したが、戦争の主導権はまだプーチン大統領の手中にある。 ただ、長期かつ大規模な作戦にロシアの財政が耐えられないのは事実だし、西側からの経済制裁は時間とともに厳しさを増す。ロシア国内の厭戦(えんせん)気分が高まれば、ロシア政府の政治的基盤が揺らぐ事態もあり得る。 プーチン大統領としては態勢の立直しを急ぐことになるが、予想される展開は、大きく分けて3つある。第1は暫定合意による停戦、第2は望んでのことではないが戦局の膠着(こうちゃく)化、第3は戦術核の使用による戦争の終結である。 停戦については、その成否を分ける2つの条件がある。「ウクライナの中立化」と「クリミア半島と東部2州の主権問題」である。まずウクライナがNATO加盟を断念し中立を宣言する。そのかわり、戦争当事国と周辺国(米、英、仏、独、中国、その他)が協議してウクライナの安全を保障する多国間条約を結ぶ構想だ。 これの難点は、それぞれの国の思惑が錯綜(さくそう)して一本化が難しいことだ。次にクリミア半島の主権をロシアに帰属させ、東部2州をウクライナから独立させる条件だが、ウクライナ側は当然拒否する。しかし、市民の犠牲を放置できず、問題を棚上げし、停戦の発効後に戦争当事国、周辺国そして国連が参加する交渉テーブルを設定する構想だ。プーチン大統領がこれにどう反応するかは予断を許さない。 停戦合意が不調に終わった場合、戦局は膠着化する可能性が高い。クリミア半島とウクライナ東部の2つの州をロシア側が実効支配し、ウクライナは朝鮮半島のような分断状態に陥る。この膠着が何年続くかわからず、常に戦争の火種は残るわけで、世界経済に長期にわたる悪影響を及ぼすことになるだろう。

ウクライナ情勢が急展開 《雑記録》33

【コラム・瀧田薫】2月24日、ロシア軍は首都キエフをはじめとするウクライナの主要都市周辺の軍事施設に空からの攻撃を開始した。今回のウクライナ攻撃が「力による一方的な現状変更を禁じた国際法」に違反することは明白であり、日本政府がロシアに対する非難声明を発表したのは当然のことである。今後、ロシア制裁について、政府はG7メンバー国と同一歩調を取ることになるだろう。 米欧側はロシア軍のウクライナ侵攻を抑止できず、今後、大規模な経済制裁を発動するにしても、手詰まり感は否めない。米軍あるいはNATO軍の軍事介入は、ロシアとの核戦争を覚悟しなければできないオプションであり、米欧にできるウクライナへの軍事支援としては、最大限、武器・弾薬と情報の提供ぐらいだろう。 一方、ウクライナ政府は「非常事態宣言」を発し、ロシア軍への反撃を国民に呼びかけている。しかし、彼我の戦力差は大きく、ロシア軍に対する組織的抵抗を長期間続けるには無理がある。ゼレンスキー・ウクライナ大統領は、親ロ派やロシアが送り込んだ工作員によるクーデターやテロの可能性にもおびえなければならない―それが実態と思われる。 他方、プーチン大統領は、ウクライナ侵攻を事前の計画どおりに進めており、現時点で戦争の主導権は完全に彼の手中にある。しかし、プーチン大統領にも不安材料はある。 彼の最終目的は「強国ロシアの復権」であり、そのための条件として、この戦争の後、ウクライナ、ベラルーシそしてロシアとの間で強力な同盟もしくは国家統合を形成する必要がある。この戦争でウクライナを徹底的に破壊してしまえば元も子もない。 そこで、可及的速やかにウクライナの現政権を無力化し、新政府(ロシアの傀儡政権)を誕生させることが、プーチン大統領の最優先課題となる。首都キエフの制圧に手間取って、ロシアとウクライナ双方に甚大な人的・物的損害が出るような事態になれば、プーチン大統領は、たとえ戦争に勝利したとしても、ロシア国民の支持を失うだろう。

プーチンはウクライナ侵攻を決断するか 《雑記録》32

【コラム・瀧田薫】ウクライナ情勢が緊迫の度を増しています。1月27日、米政府とNATO(北大西洋条約機構)がロシア側の要求「NATOの東方拡大の停止」を拒否したことで、米ロ間の外交交渉は行き詰まりつつあります。すでに昨年12月の時点で、プーチン・ロシア大統領は「米欧がロシアに対する攻撃的路線を続ける場合、適切な軍事技術的対応策をとる」と述べましたが、「適切な軍事技術的対応策」の具体的中身は明らかではありません。 プーチン氏の強硬姿勢は、裏返せば彼の焦りでもあるでしょう。クリミア半島の併合はロシア国内でこそ高く評価されましたが、ウクライナ国内の反ロシア感情に火を付けました。ウクライナ政府はこれを受けてNATO加盟の意思を表明、米欧諸国に急接近しています。この流れを止めなければとの思い、それがプーチン氏をせき立てています。 プーチン氏の強硬策には好材料もあります。米国は国内の分断があって、外国に対する軍事的介入に出る余裕がありません。アフガンにおける米軍の失敗を見て、プーチン氏が「米国の軍事対応はない」と判断しても不思議はありません。 また、米国と欧州、特にドイツとの間には、対ロシア政策において不協和音があります。ドイツはロシアのエネルギー資源への依存度を強めてきており、ロシアとの関係をこじらせたくないのです。中国については、米欧による対ロシア経済制裁をカバーする役割を期待できます。中ロは米国の弱体化を望む点で一致していますし、中国はいざとなれば、全力でロシア支援に向かうでしょう。 戦わずしてNATOから妥協を引き出す? 以上、プーチンの強硬策を後押しする材料はそろっているようですが、これだけで彼がルビコンを渡ることはないでしょう。彼の政策判断のもう一つの条件は、ウクライナ侵攻の費用対効果の問題です。ロシア軍と米軍が直接衝突する可能性は低く、問題はロシア軍とウクライナ軍の衝突にほぼ限定されます。

パーパスとミッション 年頭経済展望《雑記録》31

【コラム・瀧田薫】昨年の師走、「1年を象徴する漢字」が発表されました。京都・清水寺の貫主が揮毫(きごう)したのは「金」(きん)の一字でした。オリンピックの「金メダル」、大谷翔平選手が打ち立てた「金字塔」などの印象が強かったようです。 この催しは昨年で27回目。そのうち「金」という字が選ばれたのは4回目だそうです。他に複数回選ばれた字としては「災」が2回あるだけだそうですから、「金」は大変な人気です。ちなみに、この字を「かね」と読んだ例は、2016年に1回(政治と金)あるだけでした。毎年選ばれても不思議はないと思うのですが、当たり前過ぎて印象に残らないのかも知れません。 さて、お金からの連想ですが、今年の世界経済、日本経済はどのような1年になるのでしょうか。例年、新聞や雑誌が新年特集号を組み、経済の先行きを予想するのですが、筆者は「存在意義・パーパス」や「使命・ミッション」といった言葉が2022年度経済のキーワードになると予想しています。 「パーパスとミッション」は、コロナ禍で疲弊した社会や組織を立て直そうとする勇気ある人々にふさわしい言葉ではないでしょうか。コロナ禍によって、社会は多くのことを見直しつつあり、人々の意識も大きく変化しつつあります。アフター・コロナにおいて、経済活動や社会活動がコロナ以前と同じ形で復元されることはあり得ません。もし復元できると考えたとしたら、時代と社会を読み誤ることとなります。 企業も社会も、この大変化を踏まえて、未来を見据え、自らのパーパスとミッションを再構築しなければなりません。 広がる「パーパス経営」の動き

グローバリゼーションに新ルール 《雑記録》30

【コラム・瀧田薫】ダニ・ロドリック氏が「グローバリゼーション・バラドクス(The Globalization Paradox)」(2011年)を出版してから、今年でちょうど10年になります。この間、「グローバリゼーション」に関する論文・著作が数多く発表・発行される中で、この本の存在感はまだ失われていません。 この書物が発行された当時、著者は世界経済の「政治的トリレンマ」(民主主義、国家主権、グローバリゼーション)を同時にバランスよく追求することは不可能で、旗色の悪くなった国家主権と民主主義を守るために、グローバリゼーションをある程度制限することもやむを得ないと主張しました。 この主張を経済学の観点から見れば、いわゆる新自由主義的論理が市場と政府は対立関係にあると考えるのに対して、金融、労働、社会保障など、国家がコントロールする諸制度が補完しない限り、あるいは政府による再分配やマクロ経済管理が機能しない限り、市場はうまく回らず、秩序あるいは社会的安定も確保できないとする考え方と言えるでしょう。 政治学においても、国家の統治能力の向上なしに持続的な経済発展は望めないとの見方が有力ですし、ロドリック氏の考えは正鵠(せいこく)を射たものと思われます。 主権国家が新たな規制枠を用意

政治に変化の兆し? 若者の政治離れ対策 《雑記録》29

【コラム・瀧田薫】経済協力機構(OECD、先進国38カ国で構成)の調査では、2016~2019年の間、日本の国政選挙投票率は加盟国の下から5番目に位置しており、日本は先進国の中で低い国の一つとされています(FNNプライムオンライン 10月13日)。投票率が低い原因の一つは、若者世代の政治への関心の低さにあるとの指摘があります。 少子高齢化が進行する中、これからの日本を支えていく若者世代の政治離れは、この国の将来にとって深刻な問題です。これまで、政府、自治体それぞれに、若者の投票率を上げようと工夫を凝らしてきたのですが、効果はあがっていません。 そうしたなか、日立市は「全国的にも珍しい取り組み」(日立選管の小林克敏書記)を始めました。ワンボックスの公用車を「期日前投票所(投票車?)」に改造し、市内の高校を巡回して、18歳に達した高校生に投票を促すそうです。同選管は「18歳投票率を向上させることが喫緊の課題」としています(茨城新聞 10月24日)。 近い将来、自治体の中核を担うはずの若者の政治離れを放置すれば、自治体の衰退につながるとの危機感でしょう。 投票行動を助ける「ボートマッチ」

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桜と遠藤周作が教える 日本人の心 《遊民通信》61

【コラム・田口哲郎】前略 東京で桜の開花が宣言され、21日にははや満開。茨城県南の桜も咲き始めましたね。これからがとても楽しみです。毎年、この時期になると街のいたるところで桜が咲きます。満開もすばらしいですが、散りぎわも美しいです。 世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし(この世に桜がなかったならば、春の気分はおだやかだろうに) これは有名な在原業平の歌です。古代から日本人は桜を愛してきました。桜の花の咲き方は日本人の心を表している、なんて言われます。桜を見ながら、何もむずかしく考えなくても湧いてくる素直な感動、これが日本人の心というものなのかな、と思ったりします。 それにしても、日本人の心とはなんでしょうか? それについて深く考えたのは、前回も取り上げました作家の遠藤周作です。

若手社会学者 清水亮さんが紐解く 阿見・土浦「軍都」とその時代 

『「軍都」を生きる 霞ケ浦の生活史1919-1968』(岩波書店)は、社会学者の清水亮さん(31)が地道な資料調査やインタビューを積み重ね、戦前から戦後を描き出した新刊。予科練(海軍飛行予科練習生)につながる海軍航空隊があった阿見、航空隊からの来客で栄えた土浦の人々が、基地や軍人たちとどう関わりながら生活したか、さらに戦後なぜ自衛隊駐屯地を誘致したのかを紐解く。 等身大の人々の目線で歴史研究 土浦市の開業医で作家の佐賀純一さん、阿見町の郷土史家である赤堀好夫さんらが取材し聞き書きした記録や地元紙、常陽新聞の記事などの資料も多数引用され、当時の人々の声を拾い集めた生活史となっている。豊富な写真を交え、日常の中で起きたさまざまな出来事を取り上げながら、「軍都」が抱えていた問題や葛藤についても分析している。 清水さんは「俯瞰(ふかん)する歴史学とは一風違って等身大の人々の目線で、下から見上げる歴史を書きたかった。自分の解釈は出さず、事実を重ねて書いた。戦争は重たくて悲惨なテーマと思っている人、歴史に関心がない人にこそ読んでもらいたい。日常生活の中の等身大の歴史に触れてほしい」と話す。

(仮)のまま30回目の同人誌即売会 26日に土浦市亀城プラザ

同人誌即売会の第30回「亀城祭(仮)」が26日、土浦市中央の亀城プラザで開かれる。漫画やアニメの愛好者たちが集う交流イベントだが、仮称を思わすネーミングのまま、イベントは30回目を迎え、春に萌え(もえ)る。 亀城祭(仮)は漫画やアニメの愛好者たちが、読んだり見たりするのに飽き足らず、創作活動を始め、出来上がった作品を同じ趣味を持つ同士で売り買いする同人誌の即売・交流会。東京ビッグサイトなどを会場に大規模なイベントが開かれているが、地方でも同様に小規模な同人誌即売会が行われており、土浦では亀城祭(仮)がそれにあたる。 主催はコスモグループ。土浦市在住の女性会社員、三条深海さん(ペンネーム)が代表を務める。元々趣味で漫画を描くなどの活動をしていたが、県内で互いの作品を見せ合うなどして交流をする場を作っていきたいと同じ趣味の仲間に声を掛け、同市内で即売会「コミックネット」を開いたのが始まりという。 亀城プラザの大会議室や石岡市民会館を借りて、40小間程度の小規模な同人誌即売会を開催したが、会場が手狭になったため、2007年以降、亀城プラザ1階フロアを借り切る現在のスタイルになり、春と秋の年2回のペースで開催してきた。コロナ禍で20年の春、秋、21年の秋は中止となったが、参加意欲は衰えず、22年の2回の開催をこなし、今春第30回の節目を迎える。 この間ずっとタイトルから(仮)の字を外さずにきた。三条さんは、「イベントとしての発展への期待を込めて、今は(仮)である、という意味でつけている。また亀城祭という地域のお祭りがあるので、それとの区別のため名称を工夫した」そうだ。 イベントの参加者は毎回、延べ200人ぐらい。今回は出展者として50を超すサークルが参加する。1階フロアに約60台の机を並べて売り場とし、出展者の販売物が展示される。創作物は一次制作(自分で創作したオリジナル作品)、二次創作(元々あった作品に自分なりに手を加えたもの)がある。漫画やアニメだけでなく、手作りのアクセサリーや写真集などを扱う売り場もある。

磯崎新さんの思考をめぐる 「作品」つくばセンタービルで追悼シンポジウム

建築家、磯崎新さんの業績を振り返るシンポジウムが19日、つくばセンタービル(つくば市吾妻)のノバホールで開かれた。つくば市民が中心となる「追悼 磯崎新つくば実行委員会」(委員長・鵜沢隆筑波大名誉教授)が主催した。同ビルをはじめ、水戸芸術館などを手掛け、昨年12月に91歳で亡くなった磯崎さんをしのんで、県内外から約350人が訪れた。会場では、磯崎さんの「思考」をめぐってパネリストの白熱した議論が繰り広げられた。 来場者を迎える磯崎新さんの写真=ノバホールロビーに 登壇したのは、磯崎さんのアトリエ勤務を経て、建築分野で多数の受賞経験を持つ法政大学名誉教授の渡辺真理さん、横浜国立大名誉教授の北山恒さん、神奈川大学教授の曽我部昌史さん、2010年ベネチア・ビエンナーレ建築展で金獅子賞を受賞した若手建築家、石上純也さんの4人。登壇者それぞれが磯崎さんとの想い出を振り返ることから始まった。 「広島の廃墟」にルーツ 「ノバホールの入り口の壁と天井のパターンを手がけた」という渡辺さんは、1980年から95年にかけて磯崎新アトリエに勤務し、センタービル建築にも携わった。入社当時、磯崎さんは「街の全てをデザインする意気込みで取り組んでいた」と振り返る。