【コラム・相沢冬樹】二十三夜に昇る半月を「下弦」と書いたら(7月3日付け「土着通信部」16)、添えた写真に「上弦では」と異議を唱えるものがいた。数学で、円周上の2点を結ぶ線分を「弦」と習うから、半円の直線部が上にある月を上弦という見立てをしがちである。けれど翌日の昼間、月が西に向かって沈みだすときには、直線部も半回転して下側に移ってくるはずだ。上弦、下弦の月とも見る時間によって、弦の位置は異なるのである。

辞書で「弦」を引くと、「弓を張った形の月。半円形の月」(日本国語大辞典)とある。弦は半月そのものを指している。月が天空にあるとき、光る半円が右にくるのを上弦、左にくるのを下弦と覚えた方がよさそうだ。向かって右を上、左を下というのは、舞台の上手下手(かみて・しもて)に通じる言い回しである。

夜半の散歩で月の写真を撮るようになってから、月の満ち欠けと掛かる方角が気になりだした。太陽ならば春分・秋分には真東から昇り、冬場は南にずれ、夏場は北にずれるから、日の出の位置はおおよそ見当がつく。しかし月の場合、定点観測をしてみると季節と関係のないことが分かってくる。旧暦の日付から月齢は分かるが、出てくる場所は北東から南東の間を行ったり来たりして規則性が見いだせない。

新月から満月を経て新月に戻るまで、29.52日かかる月の満ち欠けをひと月としたのが旧暦(太陰太陽暦)で、晦日(みそか)が29日と30日の月が交互にやってくる。他方、月が地球の周囲を公転する周期は27.32日で、この2日強の差がずれをつくる。地球の公転軌道面に対する月の傾斜角も計算しなくてはならないらしい。月の出の時間からして、前日と1時間以上違うことも30分しか違わないこともある。天体の運行のことだから、法則は当然あるのだろうが、数学上の説明をいくら聞いても分からない。

ところが、最近は便利になったものだ。ネットには「月齢カレンダー」や「月の出・月の入り時刻方角マップ」などのサイトがあって、面倒な計算は自動でやってくれる。この記事が掲載される9月18日は、ちょうど上弦の翌日に当たっている。月齢 8.4だから、ほぼ半月に見えるはずで、18日午後1時半ごろ南東から上がった月は深夜11時40分ごろ南西の地平に沈む。

十五夜は24日、満月は25日

さらに1週間後、24日が「仲秋の名月」の十五夜である。ここで月齢カレンダーでは翌25日が満月と記されるから、軽い当惑を覚える。24日と25日の月齢はそれぞれ14.4と15.4。このずれは、24日に昇った十五夜の月が日をまたいで満月になると考えれば理解できる。数学の問題ではなく、地理の問題というわけだ。

土浦駅あたりを基準に月の出マップをみると、24日は午後5時26分にほぼ真東、霞ケ浦越しに月が昇ってくる。十五夜を過ぎると月の出は、日ごと夜ごとに遅くなり、月見は月待となる。秋の夜長を楽しめる季節になってきた。(ブロガー)