《土着通信部》20 もうナデシコの花はない 秋の七草考

上段㊧から㊨へハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、下段はオミナエシ、フジバカマ、アサガオの花(土浦市内で)

【コラム・相沢冬樹】萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 女郎花(おみなへし) また藤袴(ふぢばかま) 朝貌(あさがほ)の花(『万葉集』巻八) 順にハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、アサガオで秋の七草。万葉歌人、山上憶良(やまのうえのおくら)の詠んだ歌を起源とし、歴史的には春の七草より成立が早い。春は食用だが、秋は花を観賞するラインアップになっている。

日々の散歩ついでに、これら七種の花をカメラに収めようとしたが、9月のスタートではもう間に合わなかった。たとえば、山上憶良の時代だと、アサガオはまだ日本に移入されておらず、植物学者の牧野富太郎は「朝貌の花」はキキョウであるとの説を採っている。一般にキキョウならば夏の花で、9月(仲秋、旧暦8月)には花期が終わっている。

ナデシコとなるとさらに早い。代表的なカワラナデシコの場合だと花の盛りは6、7月で、8月末に花の姿はない。筑波実験植物園(つくば市天久保)に問い合わせると、「園内で見られたのは8月半ばまで」という。ことし暦の上では8月7日が立秋、8月11日から旧暦7月(初秋)に入っていたとはいえ、特に猛暑の真っ最中、「秋」と呼ぶには相当無理があった。俳句でも瞿麦(撫子)は、夏のものか初秋のものか定まっていない。

逆にフジバカマがほころぶのは9月下旬だから、七草が一時期に咲きそろうことは上代でもなかったはずだ。近年は環境の変化からか、散歩道で見つけるのは難しい。オミナエシも見かけるのは花壇に植えられた園芸種ばかりになった。

そんななか、我が物顔で野山に大繁茂しているのがクズ(葛)である。夏の暑さに比例するかのようにツタ草が樹木や電柱を伝って高みに達し、これから赤紫色の花穂が見ごろを迎える。僕のつくばの知り合いは子供のころ、根っこのある場所に印をつけておき、冬場になると枯草を掘り返したものだと言っていた。

きちんと掘ると人の背丈ほどの根が採れる。この根を適当な大きさに切り、乾燥させて繊維状に砕き水に浸す。アクやカスを取り除くとデンプンが含まれる白濁液になる。その沈殿を待って、上澄み液をすくって再度水を加える。この工程を繰り返すと真っ白な沈殿物が得られる。葛粉(くずこ)である。葛粉は水に溶き加熱すると、今度は透明な状態で糊化(こか)して葛湯や葛切りになる。冬場、いかにも身体が温まりそうな食品である。

良質な本葛ともなれば高級食材のはずだが、今や誰も採集しようとしない。実際に掘ってみたという「くずかごの唄」の奥井登美子さんの話だと、「根っこは親指ほどの太さしかなく、しかも地中に散らばって張っているから手間ばかりかかった」そうだ。実益を生む資源にはなりそうもないけれど、環境教育向けにツタ草を巻き取って、丸めてつくるクリスマスリースを準備している。夏から冬まで楽しめる素材が秋の七草ということである。(ブロガー)