【コラム・相沢冬樹】水車と手仕事でつくる線香は、工業製品とどこがどう違うのか、つい定量的な答えを求めたくなるが、石岡市小幡で駒村清明堂を営む駒村道廣さん(64)の口からは、ほとんど数字の話が聞けなかった。「100%」天然のスギの葉だけを使う昔ながらの製法に足すものは何もない。香りや粘りの元となる成分を問うても、厳密には分からないという。

たとえば水車は、恋瀬川の支流である山あいの清流から引き入れた水を、懸樋(かけひ)で落として回している。約10年前に更新した水車は木造で直径約4㍍ということだが、1分間にどれだけの水量が流れ、何回転ほどしているか、計ったことはない。「ゆっくり回るのがいい」という経験則の前に、データによる解析は意味をなさない。

家業の杉線香づくりは、この川のほとりで100年以上、5代に渡って続いてきた。良質のスギと水を求め、線香づくりの盛んだった新潟から栃木経由で移り住んだ。かつては川沿いに10基以上の水車があったといい、駒村さんの記憶では、うどんの小麦を挽いたり菜種油を搾る水車などが回っていた。今も石岡市柿岡には水車づくりの職人がいるが、川沿いに残るのは1基だけとなった。

駒村さんは石岡市の旧八郷町周辺の山々をめぐり、山林地主との直取引でスギの枝葉を調達してくる。若い樹にはヤニと粘りが足りないから樹齢50年以上が望ましい。概ね秋から春先にかけて山に分け入る。

70本×5把入り1,000円

集めた枝葉は自然乾燥を待って、葉の部分だけを選別し、水車にかける。葉を2㌢程度に荒く刻み、それを木の臼に入れ木の杵で搗(つ)く。杵の先端には金具がついているが、水車からの力を伝える歯車はすべてが木製だ。電動の製粉を試したことはないそうだが、一般には熱が出るため、香り成分を損なうとされる。

スギの葉を搗くこと一昼夜半、土色をした杉粉が出来あがる。篩(ふるい)にかけて細かいものだけえり分けると、ほのかなスギの香りと粘り気が感じられるようになる。この作業は1年を通し行われ、出来あがった杉粉は20㌔入りの袋に詰めて保管される。

杉粉を桶に入れ、お湯を加えて練っていくのが次の工程。その日の天候などに応じて、練り加減を変え品質を整える。粘土状になった杉粉を線香の形に押し出すプレス工程だけは機械の力を借りるが、糊やつなぎの類はいっさい入れない。これが「100%天然」のゆえん。直売している「水車杉線香」(約70本×5把入り、税別1,000円)には緑色の色素も加えていない。杉粉本来の土色をしている。

緑色をした線香も製造しており、県内ではカスミ各店で購入できる。最近はキクやバラ、ラベンダーの香りがする線香も売り出し、見学客も受け入れている。生産量や販売量も聞いたが、数字に関わる駒村さんの答えは最後まで素っ気なかった。(ブロガー)

▼駒村清明堂 : 石岡市小幡1899 電話 0299-42-2819