《続・平熱日記》16  映画の中の絵画 官邸の立派な絵


【コラム・斉藤裕之】かれこれ30年、映画館に行ったことがありません。映画は好きなのですが、多分貧乏がきっかけで行かなくなったのだと思います。では、映画を見ていないかというと、レンタルや有線テレビで結構見ている方だと思います。暇のある貧乏なので。

ところで、アメリカの映画やドラマを見ていると、背景に絵画が映っていることがよくあります。オフィスや銀行の壁。なぜか20世紀の抽象絵画が多いように感じます。有名な絵画やそうでないもの。「キックアス」のアンディ・ウォーホルの様に象徴的に使われている場合もありますが。

背景として使いやすいのか、実際にアメリカではそうなのかわかりませんが、絵画の中心がヨーロッパからアメリカに移った時代の、当時の国力を示す様な作品が多いのは、なんらかのプロパガンダなのかも知れないと感じています。

先日、千葉県佐倉市にある川村記念美術館をかみさんと訪ねる機会がありました。映画館と同じくらい行かない美術館。実は20年以上前、大学の助手をしていたころ、学生たちとバスで訪れたことがあります。緑豊かな広い敷地に佇む美術館。ここに展示してあるのは主に20世紀の現代絵画。

そうなんです。映画の背景によく出てくる絵画たち。学生時代に洗礼を受けたコンセプチャルやミニマルと呼ばれるアートです。久しぶりに、広く無機質な展示空間でマークロスコやフランクステラたちに再会し、感慨深く当時のことを思い出しました。

しかし、各部屋の隅に無言で座ってらっしゃる職員の女性の姿が、一番現代美術を象徴していました。「ご苦労様。こんなところで何時間も大変ですね」。この仕事はそろそろAIに任せていいんじゃないでしょうかね。よかったのはレンブラントの自画像。ほっとしました。

ついでといってはなんですが、たまたま有線放送で見た「美しき諍い女」というフランス映画。老画家が若い女性をモデルに絵を描くという内容ですが、好き嫌いはさておき、その画家が繰り返すデッサンのプロセスが素人のそれではない、つまり木炭の線や一筆が例えば私がデッサンする時のイメージ通りに進んでいくのです。

これは!と思い調べてみたら、この役をベルナーン・デュフールという本物の画家が演じていたことがわかり納得しました。当時担当していた社会人対象の人物デッサンの講座で、この映画のことを生徒さんに勧めたのですが、残念ながら題名を覚えていませんでしたので、伝わったかどうか。

実は日本でも、ソーリの会見などの背景には立派な絵が架かっています。国が文化芸術を支えることは大切なことですが、芸術は公にこびるものではありません。先日カンヌでパルムドールに輝いた監督が文科大臣のお誘いを断りました。賛成です。少なからず表現の根源は負の体験、感覚から生まれます。なにせ「万引家族」ですから。大臣お判りでしょうかね。(画家)