《邑から日本を見る》18 常陸太田の市民劇団が幕


【コラム・先﨑千尋】21年続いた常陸太田市の市民劇団「劇工房橋の会」が、惜しまれながら今月15~17日の4回の公演で幕を下ろした。最後の公演は、原爆被害の後遺症をテーマにした「泰山木の木の下で」(小山祐士作)。同市中城町の市生涯学習センターで開かれた。

「橋の会」は、東京芸術座などの女優として長年活躍してきた木村夫伎子さん(84)を中心に、地元の主婦や商店主たちによって1997年に結成され、東日本大震災の年を除いて毎年公演を続けてきた。木村さんは60歳の時に父の介護のために同市へ帰郷した。

劇団の「橋の会」という名前は、社会性のあるテーマの演劇を通して心を揺さぶるメッセージを市民に届け、人のために、社会のために生きてほしいという願いと、人と人の架け橋になれればという想いで付けられた。

木村さんは「公演を始めた頃は、見に来てくれる人がどれだけいるか不安だったが、客席はいつも満席に近い状態。お客の温かい声援に押されて20年を超えてしまった。ありがたいこと」と感謝の言葉を述べている。そして「自分では物忘れをしたり、転んでけがをしたりし、年を感じるようになってきた。また出演者も40歳代の人が60歳代になり、親の介護などで稽古に出られなくなった人も出てきた」と解散を決めた。今回の出演者は男女14人。市内に住む主婦や商店主、市役所職員などで、顔見知りも多い。木村さんが演出と主役を務めた。

これまでの公演では、戦争や冤罪(えんざい)、裁判員裁判制度、水俣病、沖縄など多くのテーマを扱い、「荷車の歌」「からゆきさん」「土」などの名作も。その中でも原爆をテーマにした作品が6回と最も多く、初演は「この子たちの夏」で、チェルノブイリを扱った作品もあった。社会性のあるテーマの舞台を演じる劇団として注目され、ニューヨーク・タイムズなど海外のメディアに取り上げられたこともあったという。

今回の劇の主人公は、瀬戸内海の小島の大きな泰山木のある家に1人で住む神戸(かんべ)ハナ。ハナ婆さんの家族は戦争と原爆でみな死んでしまい、自らも被ばくしている。戦後ハナは、被ばく者の後遺症を恐れて子供を産むことをためらう娘たちのために、違法と知りつつ人助けと考え堕胎を行っていたが、ある日逮捕されてしまう。

瀬戸内海の美しい叙情と、時代の波にもまれながらも必死に生きる人々の生活と生きざまを通じ、やわらかな美しい味わいを保ちながら、戦争、原爆、公害がいかに人の心に大きな、また長い傷を負わせたのかを、静かに、しかし説得力を持って語りかけてくる。作品を書いた小山は、執筆時に「人間を書きたい、奥の奥まで。そして人間の意味を考えたい。それでこそ心の価値がわかる。生命や平和、原爆や戦争の本質がわかる」と語っていた。この作品は、脚本の完成前から劇団民藝が着眼。63年に宇野重吉演出、北林谷栄主演で初演された。

舞台に戻る。ハナは裁判で実刑判決を受ける。その後、病に伏し、ハナを逮捕した刑事らに病室で見守られながら息を引き取る。この場面を見て、木村さんは最後にこの役をやりたかったのだと考えた。

私は「始めたことには必ず終わりが来る」と考えてきた。潮時という言葉があるが、木村さんは今回の公演を最後にしたいと考え、稽古に励んできたのだと悟った。木村さんに長いことご苦労様、そして楽しませていただき、ありがとう、と申し上げる。(元瓜連町長)