【コラム・奥井登美子】「リレー・フォー・ライフ・ジャパン」の日が近くなった。「私たちはがん患者さんやご家族の皆さんを応援し、地域全体でがん征圧を目指します」。日本対がん協会主催の24時間チャリティイベントである。

東京の御茶ノ水駅近くの日本医科歯科大付属病院に実行委員会があり、毎年、24時間、付属病院の庭を「癒しの庭」として、がんで亡くなった人へのメッセージを書いた紙袋の中にLED電球を灯している。何千枚かのメッセージのひとつひとつが、がんで亡くなった人たちへの癒しと愛であふれている。

「ママ、今年も参加してくれる」。「もちろんよ」。娘は亭主を肝臓がんで亡くしてから、この病院でがん研究をしている医者の下で血液内科実験の手伝いをしている。尊敬出来る人がいて、ささやかながらその人の役に立つ仕事ができるのは、彼女の精神的安定にも、とてもいいことだと思う。

薬剤師の私から見ると、それは亡くなった人への「現代流のあだ討ち」みたいなものでもある。武士の時代が終わって、あだ討ちは江戸時代で終わったのだと思ったら、さにあらず。見えないがん、原因の分からない難病に向かって挑戦する、現代流のあだ討ち精神があってもいいと思っている。

昔、筑波大の学生サークル「かざぐるま」の人たちが、土浦市東崎の鷲神社と我家のこども文庫を利用して、子供たちと遊んだり、絵本を読んだりしてくれていた。この間、その同窓会があって、みんなが帰りに我家に来てくれた。

絵本が詰まった本棚のある子供文庫は、老人用の認知症予防の「かっぱサロン」に変身していて、皆大笑いだ。孫の大学生のノンちゃんは、みんなからお父さんの学生時代の話を聞いて実に楽しそうだ。私は早速メッセージの袋を回して、あの世にいるメメズさんへの伝言を書いてもらった。

その10日後、あろうことか、このサロンのボランティアをしてくれていたHさんが悪性中皮腫で亡くなってしまった。亡くなる前日、土浦協同病院に私がお見舞いに行った時は元気で、出身地会津の話などをし、「会津精神でがんばるよ」と言っていたのに…。

おかげで、「リレー・フォー・ライフ・ジャパン」のメッセージが13人分も増えてしまった。不気味ながん細胞を相手に、Hさんの分も含めて私にどんなあだ討ちができるか、無い頭を振り絞って考えないわけにいかない。(随筆家)