《邑から日本を見る》29 「日本が売られる」を読む


【コラム・先﨑千尋】今月1日、山口県周防大島町の水道が40日ぶりで復旧し、住民に安心が戻った。この映像をテレビで見て、私たちの心もなごむ。水は私たちの暮らしに不可欠なもの。水がなければ生きていけない。私たちの先祖は井戸を掘り、湧き水や雨水を利用し、生きてきた。しかし今はほとんどが公営の水道に頼っている。水はタダではなく、しかも自分の力では得られなくなってしまっている。

その水道が民間企業に売られようとしている。先週の国会で水道法改正案が可決し、水道事業の民営化が可能になる。この改正案は、経営悪化が懸念される水道事業の基盤強化が目的。国会では野党から、民営化は誰のために行うのかと厳しい意見が出されたが、与党は数の力で押し切った。企業は金もうけだけ。民営化されれば、外国の事例でわかるが、水道料金は確実に上がる。

今国会では漁業法も改正され、多くの零細漁民が持っている漁業権が民間企業に売り渡されようとしている。ゴーンさんの逮捕劇や、相変わらずのトランプ大統領の派手な動きなどに気を取られ、国民の多くが気付かないうちに、こっそりと大切なものが奪われている。

水道、農地、種子、教育、福祉、医療……

こうした折、堤未果作『日本が売られる』(幻冬舎新書)を手にした。まえがきに「次々に売られてゆく大切なものは、絶え間なく届けられる派手なニュースにかき消され、流れてゆく日常に埋もれ、見えなくなってしまっている」とある。まさにその通りだ。

本書によれば、「売国」とは「自国民の生活の基礎を解体し、外国に売り払うこと」。国民の命や安全、暮らしに関わる水道、農地、種子、警察、消防、物流、教育、福祉、医療、土地などのモノやサービスを、安定供給する責任を放棄して、市場を開放し、外国人にビジネスとして差し出すことだ。

経済学者の宇沢弘文氏が「社会的共通資本」と呼んでいた土地、水道、空港に鉄道、森林や学校、病院、福祉施設などが投機、金もうけの対象となり、次々にハゲタカ企業の手に入っていく。

本書は「日本人の資産が売られる」「日本人の未来が売られる」「売られたものは取り返せ」の3章から成る。資産として売られるものとして著者があげているものは、冒頭で触れた水、土、タネ、ミツバチの命、食の選択肢、牛乳、農地、森、海、築地。日本人の未来としては、労働者、日本人の仕事、ブラック企業対策、ギャンブル、学校医療、老後、個人情報がある。

言われてみれば、入管法改正案の拙速な審議、カジノ法の成立と大阪万博の誘致など、思い当たることが目白押しだ。

しかし、あきらめるのは早い。「売られたものを取り返せ」「今が未来へギアチェンジする時だ」と、著者はイタリア、マレーシア、ロシア、フランス、スイス、アメリカの草の根政治改革、消費税廃止、水道公営化、消費者と協同組合のタッグ、子どもを農薬から守る母親の運動などを紹介している。

最後に、「売らせない日本」のために、私たちの一瞬一瞬の選択が未来へのギアを入れ直すことになる、と訴えている。(元瓜連町長)