【コラム・先﨑千尋】原子力規制委員会は、9月に日本原電の東海第2原発について新規制基準適合審査に合格したことを決定し、10月から11月にかけて、工事計画と20年延長を認可した。これで規制委による主な審査が終わり、原電がいつ再稼働を表明するのか、地元同意を求めるための協議をいつ始めるのかが焦点となる。

運転再開のためには、地元同意だけでなく、新基準に沿った対策工事が必要だし、30㌔圏内の市町村の避難計画策定が前提となり、ハードルは低くない。対策工事は2年余の時間と1,740億円の費用がかかるとされ、その捻出も容易ではない。

東海第2の再稼働に関しては、これまでに伝えられているように、地元の東海村だけでなく周辺5市との協議が必要になったが、そのうちの1つの自治体が再稼働の了解をしない場合はどうなるのかがあいまいにされてきた。

海野徹那珂市長は10月の記者会見で「市の調査では、住民の多くは再稼働に反対。一斉避難も無理」と再稼働に反対する姿勢を明確にした。これに対して東海村の山田修村長は「新協定は日本原電の発電事業を認めた上での協定」だとし、拒否権を否定する発言をした。

その後、水戸市、日立市、常陸太田市の首長は海野市長と同様の見解を示し、「事前了解の解釈にズレが目立ってきた」(日経11月8日)、「拒否権有無で市村長の認識の違いが表面化」(毎日11月8日)と伝えられる始末。そして、日本原電の和智信隆副社長が「拒否権なんて言葉は協定のどこにもない」と7日の記者会見で述べたため、9日に急きょ6市村の首長が集まり、原電との協議が行われた。

この席で、6市村の首長からは「副社長の発言は傲慢だ。あの発言は許せない」などの意見が相次ぎ、副社長の発言撤回と謝罪を要求した。その上で、「原電から再稼働の表明がないまま、対策工事をなし崩しに進めることはない。1市村でも了解しなければ再稼働はできない」という認識で一致した。

「拒否権」発言で埋まった6市村の溝

6市村間の溝は、思わぬところで原電副社長が「協定に拒否権という言葉はない」と語ったことによって埋まり、山田村長がそれまでの発言を修正した形となった。このことは、同月14日の「原発いらない茨城アクション実行委員会」と山田村長との懇談の席でも確認された。

一方、茨城県は30㌔圏の住民を対象に説明会を開く方針を示し、原子力規制庁の職員が一連の審査の結果について説明するという。18日のひたちなか市長選では大谷明氏が、自民、国民民主、公明、日立製作所、連合などから推薦支持を受けた久須美忍氏を大差で破った。今後、事前了解権をどう判断するかが注目される。

19日には東京地裁が、東京電力が原電の安全対策工事費を援助するのは違法と訴えていた仮処分申請を却下する決定を下した。11月27日の40年運転期限が目前に迫った今週には、原子力規制委員会に対して「東海第2原発の許可、認可への審査請求(異議申立)」が出される。引き続き動向を見守っていこう。

差し当たっては、直近の県議選で誰を選ぶかが問われる。選挙によってしか政治は変えられない。東海第2の再稼働は、他人事ではなく自分の問題なのだ。(元瓜連町長)