【コラム・浅井和幸】ひきこもりの相談では、ひきこもっている当人よりもご家族、主に親御さんが相談に来られることが多いものです。対応策を考えるときに、現時点でどのようなことが出来ているのかは、重要な要素です。出来ていることが多ければ対応策も多く、様々な選択肢の中から手段を選べます。

ほとんどの支援者や家族、当事者の興味関心は、出来ないことである場合が多いように私は感じます。しかし私の関心事は、仮にでもよいので、どこに向かいたいかの目的と、今できていることです。今できていることと、さらに少しだけ高度なことが、その人が目標に向かうための練習する手段になるからです。

なので、相談に来られたご家族や当人に、今何が出来ているかをしつこく、細かく聞くのが浅井流です。ひきこもり問題の場合は、当人よりもご家族が来られることが多いので、「どれぐらいコミュニケーションをとっていますか」と質問します。

長年苦しんできたご家族は、「まったくコミュニケーションが取れません」と回答することも少なくありません。まったく顔も合わせず、エアコンも使わずに雨戸を閉め切り、家族が仕事などで外に出ている間か、寝静まったときにだけ部屋を出るというケースに出くわしたこともあります。

責めないで 明るく接する

ですが、ほとんどの親子は、何かしらコミュニケーションをとっています。食事が出来たとか、風呂が沸いたとかを伝えると、無言だけれど食事や風呂に入るために動き出す。これだけでもコミュニケーションです。親御さんが食事を用意したことを伝えて、お子さんにそれが伝わり、行動に変化が生じているわけです。

コミュニケーションとは、一言声掛けをして親友になることではなく、たくさんのやり取りをして、時にはすれ違いもあって、少しずつ近づいて分かり合っていくことです。何かを変えたいときは、言葉掛けや雰囲気をちょっと変えてみることが大切です。

大した返事もしないからと、「何で返事をしないんだ」とか「どうしてこうなっちゃったんだ」と責めるような、嫌な言葉を掛け続けては、好転させないように接しているようなものです。お子さんに明るくなって欲しいならば、明るく接した方がよいでしょう。親御さんがお子さんと接していない時に、明るい時間を送ることも大切です。

どう声掛けをしたら、どのような変化があったか。良いことも悪いことも、ほんのささいなお子さんの反応をよく見て受け取ることが大切です。良くなる声掛けや、きっかけだけを追い求め、お子さんがどのよう感じているかに思いを巡らせなくなってしまうことが悪循環につながります。

また、思いを巡らせても、それは推測にしか過ぎないことを自覚し、事実としてどのような反応があったかとは明確に区別することが大切です。いろいろと推測し、行動し、顧みてください。できれば複数の人で行います。それでも悪循環から抜け出せないなら、信頼できる支援者と数人ほどつながるようにしましょう。(精神保健福祉士)