早大政経学・土屋ゼミ・インタビュー3
電話で原稿取り
齋藤:時事の経済部はどのような新人教育をしていましたか。
坂本:教育はメディア各社によって違うと思いますが、時事は政治部も経済部も社会部も、入社1年目は雑用係です。当時はワープロもないし、インターネットもないわけですから、急ぎの原稿は電話で来ます。
先輩記者の電話送稿を聞き取り、それを原稿用紙に書き写す。それが新人の主な仕事でした。電話で送るほど急がないものは、各記者、属している記者クラブで書く。編集庶務係がオートバイに乗って各クラブを回り、出来上がった原稿を集めて来る。
FAXもインターネットもありませんから、物理的に原稿を集めて来るか、電話で吹き込んでもらうしかありません。大蔵省で予算発表があるときは、詳細で分厚い資料が出る。デスクはそれを早く見たいから「坂本、取って来い」「はい」と、役所に走る。(笑)
雑用の教育効果は大です。電話で1日に何本も原稿を取りますから、書き方を覚えます。先輩の原稿を書き写すわけですから、用字、用語も覚えます。間違えると怒られるから、用字、用語、原稿の書き方を懸命に覚えます。
馬鹿か!勉強しろ!
経済部は当時、50人ぐらいの組織で、記者クラブに40人ぐらい張り付いていました。どのクラブのだれか、声で分かります。雑用をすることで、経済関係の記者クラブ―大蔵省、外務省、通産省、農水省、日本銀行、商工会議所、経団連のクラブとか―は20ぐらいありましたが、クラブがある役所・組織がどんな仕事をしているのかも覚えます。
雑用をやる中で、経済部がカバーしていることが理解できる。教科書で覚えるのではなく、雑用をやりながら覚える。雑用はそういう意味で大事ですね。
左手で電話を持ち、来年度予算額は云々と、右手で原稿を取るわけです。財政用語が分からなければ書き取れない。「それ何ですか」と聞くと「馬鹿か」と怒られる。書き取りを間違うと、デスクから「勉強しろ」と怒鳴られる。
藤本:最初は取材に行くことはないということですか。
坂本:全くありませんでした。やらせてもらえない。せいぜい、記者クラブに原稿とか資料を取りに行くとき、何をしているのか様子を見るぐらい。書かせてもらえませんでした。
広範な取材ネット
齋藤:経済部は何人ぐらいいたのですか。
坂本:部長を入れて50人ぐらい。送ってきた原稿を直すデスクが5、6人。入社1年目の同級雑用係がもう1人いましたが、彼は早稲田の政経でした。あと、弁当手配や庶務的なことをやる人が1人。記者から名刺を作ってくれと言われると、そのおばさんが総務部に頼みに行く。
藤本:その方は記者ではないわけですね。
坂本:ずっと雑用係。そういう人、部長、デスク、雑用係2人、合わせると10人ぐらい。残りは出先のクラブに配置されていました。霞が関だけでも、大蔵省(今の財務省)、農水省、通産省(経済産業省)、外務省、運輸省(総務省)、建設省(国交省)などです。
今はなくなったけれど、経済企画庁という役所もありました。こういった役所のほか、日銀、自動車、電気、百貨店、エネルギー、重工業など、産業界のクラブもある。財界担当のクラブもありました。なんだかんだ入れると20ぐらいあったのではないか。
そういったクラブに記者が張り付いているわけです。少ないところは1人、多いところは3人とか4人とか。そこを拠点に担当分野をカバーするわけです。そういった広範な取材ネットワークがありましたから、記者の活動を支える雑用係は絶対必要でした。飲みに連れて行ってもらえる恩典もありましたが。(笑)(続く)
(インタビュー主担当:藤本耕輔 副担当:齋藤周也、日時:2015年12月4日、場所:東京都新宿区、早稲田大学早稲田キャンパス)
【坂本栄NEWSつくば理事長】