自然の降雨状態を再現する装置としては世界最大級という防災科学技術研究所(つくば市天王台、宝馨理事長)の大型降雨実験施設に、毎秒20メートルを上回る強風を人工的に発生させる機能が新たに追加され、台風レベルの暴風雨環境を体感できる実験が11日に報道陣に公開された。
大型降雨実験施設は、豪雨を原因とする自然災害の防止・軽減を目的に、1974年から運用している防災科研ご自慢の施設。局地的に大雨をもたらすゲリラ豪雨に対する社会的な関心の高まりに応じ、2013年度には降雨強度を1時間に300ミリまで再現できるように機能強化を図った。
バケツをひっくり返したような雨、叩きつけるような雨を再現して、わが国では他に類例のない実験施設となったが、線状降水帯など極端な気象現象がみられるようになった近年、「風」を加えた暴風雨環境の再現が求められていた。
今回大型降雨実験施設内に設置されたのは、最大風速毎秒20メートルを上回る強風を人工的に発生させる装置。大型送風機を4機内蔵し、幅3メートル、高さ3メートルの吹き出し口に集中させ、秒速1〜25メートルの風速で稼働する。さらに降雨装置を同時に稼働させることで、台風レベルの暴風雨環境の再現を可能にした。
11日の公開実験では、今までに日本で記録された10分間雨量の最大値相当である50ミリ(1時間当たり300ミリ相当)の雨と同時に、毎秒25メートルの風を吹かせた状況を再現した。横殴りの雨、強風装置の吹き出し口には容易に近づけない極端気象の環境となった。
防災科研の酒井直樹大型降雨実験施設研究推進室長は「線状降水帯の場合、積乱雲が急速に発達することで雨も大粒になり強くなる、さらにダウンバーストという風も起きるので、一緒の環境を再現してみないと防災研究の観点からは不十分といえる」という。
大型降雨実験施設ではこれまで、大型模型斜面を用いた土砂災害軽減研究、土砂浸食に関する研究、「耐水害住宅」の実物大建物浸水実験の研究など、基礎から応用まで幅広い研究が進められている。施設は5つの実験区画と移動降雨装置などから成り、散水面積は44×72メートルの広さ、天井部に総数2176個の降雨ノズルがあり、粒径0.1から6ミリで調整した雨滴を16メートルの高さから落下させている。
防災科研によれば、この機能強化により今後、民間企業等と協働して従来の豪雨災害のための実験に加え、暴風雨環境下でも稼働が可能なドローンや自律走行が可能な車の実現などに寄与することが期待されるとしている。(相澤冬樹)