【コラム・原田博夫】トランプ米大統領は当選以来、過激な発言・政策(?)をいろいろ繰り出しているが、その一つに、フルブライト奨学金やギルマン国際奨学金といった、海外・国内留学生向けの奨学金プログラム「停止」発表(2025年3月7日)もある。この通知をいきなり受け取った現役留学生はじめ関係者には困惑と激震が走った。
この措置は、電気自動車テスラおよびX(旧Twitter)の経営者イーロン・マスクが主導するDOGE(政府効率化省)が、連邦行政機関の予算と人員を削減することに躍起になっていることに関連している。
フルブライト奨学金制度とは、米上院議員ウィリアム・フルブライト(1905~1995年)が提案し、1946年に設立したものである。彼がこの奨学金制度を提案するに至ったのは、彼自身がローズ奨学金制度で英オックスフォード大学に留学していたからだった。
19世紀植民地主義の頂点ともいうべきアフリカの鉱山王セシル・ローズ(1853~1902年)の遺言で、オックスフォード大学は彼の莫大な遺産を基に奨学金制度を1903年に設けた。その奨学生だったフルブライトは、第2次大戦後の世界のリーダーたらんとする米国への留学機会を世界の若者に開き、米国への理解者を世界中に広めようと考えた。
日本では、1949年にガリオア留学制度がスタートしたが、フルブライト奨学金による交換留学制度が始まったのは1952年からである。
両制度による日本人留学生は1968年ごろまでは毎年約300名に及んだ。しかし、予算が半減された1969年以降は、日本人留学生も50名前後に低減していた。その中、1979年、日本政府が米国フルブライト予算と負担を折半することにしたため、1980年には71名まで増加した。
私もフルブライト制度で留学
実は私自身、1982年のフルブライト奨学生で米スタンフォード大学に留学する機会を得た。すでに大学に専任講師の職を得ていたが、この期間は(私費留学に伴う)休職扱いにしていただいた。
この期間中に、専門分野での研究を深めることができただけでなく、米国サイドが設定してくれた留学生同士の交流の場(複数回、各2泊3日程度)で、ヨーロッパやアフリカからの留学生たちと様々な意見交換ができたことも貴重な機会だった。国務省に招かれた際は、生前のフルブライト氏自身とも直接言葉を交わすこともできた。
申請時には、それまでタイプライターを打ったこともなかったため、奮発してコレクション(修正)機能付きで相当な重量の電動タイプライターを購入し、深夜まで申請書類などを仕上げたことも、懐かしい思い出である。
それを止めるというトランプ大統領の乱暴な政策(思い付き?)はさて置き、日米教育委員会(フルブライト・ジャパン)は2025年の募集を予定通り進めている。マスク氏も「自分はトランプ陣営にすでに相当の寄付をしている」(5月20日)と公表し、政権メンバーとは一線を画す気配のようだ。くれぐれも、こんな愚策は取り下げてもらいたい。(専修大学名誉教授)