【コラム・三橋俊雄】ユニバーサルデザインとは、年齢や性別、障がいの有無などに関わらず、できるだけ多くの人が利用しやすいように道具や環境をデザインすることですが、一方で、障がい者の多様な声に耳を傾け、彼らの個別ニーズに対応したデザインを行うことも必要です。今回は、京都で出会った「歩くことができないKさん」と「手首が回らないAさん」のためのデザインについてご紹介します。
Kさんのための「空飛ぶ座布団」
Kさんは脳性麻痺で、四肢のうち自由に動かせるのは左手のみ。バーセルインデックス(食事、移乗、トイレ動作、入浴、歩行など10項目の日常生活動作の能力を点数化する評価方法)では40点以下という、生活の大部分が要介護の状態で、毎日朝晩と隔日の昼間にヘルパーのサービスを受けています。屋外での移動は電動車椅子ですが、その車椅子に乗るまでの準備工程も、ほとんどをヘルパーに頼らなければなりません。また、室内での姿勢は「アヒル座り(内股座り)」しかできません。
このようなKさんに対し、自力で室内の移動ができるための福祉用具デザインを試みました。彼の移動能力を調べると、乗り移ることができる高さは19センチ、降りる時に11センチを超えると怖い、乗った時の姿勢のズレを防止する凸部が必要、乗り降りのためのブレーキが必要など、試作モデルでの使用実験を繰り返し、写真(上)のような「空飛ぶ座布団」のデザインになりました。
Kさんからは「おかげで、ヘルパーなしでも1人で乗り降りができ、うろうろすることができるようになった」とのことで、Kさんの望みをひとつ叶(かな)えられたと思いました。
Aさんのための食事補助具
脳性麻痺のAさんは、車イスで移動したり、杖を用いれば歩行も可能な学生でしたが、左手は筋肉が硬直し、手首が外側を向いたまま、手のひらを返すことができませんでした。
そのAさんの「両手を使ってみそ汁を飲みたい」という要望に応えるため、左手でお椀(わん)を口に運ぶことができる食事補助具のデザインに挑戦しました。
上肢の可動状態を把握し、左掌が下向きのままミソ汁椀を口に運ぶことができるモデルを、①お椀の持ち上げやすさ、②お椀の口元への近づけやすさ、③握りやすさ、④お椀を置いたときの安定性、⑤総合的な使いやすさなどの視点から検討し、写真(下)の補助具にたどり着きました。
健常者にとっては使いやすくても、障がい者にとっては使えなかったり、使いにくかったりする道具や環境がたくさんあります。障がい者のためのデザインがもっと増えてこそ、真のユニバーサルデザインの社会が実現するのではないでしょうか。(ソーシャルデザイナー)