土浦市に隣接する阿見町の人口が2023年秋に5万人を超え、町から市になる要件の一つを満たした。2年半先の市制移行を目指す千葉繁 阿見町長に、その段取りと県内では珍しく人口が増えている要因などについて聞いた。霞ケ浦湖畔を活用するまちづくりの話は面白い。
国勢調査で5万人要件クリアへ
千葉さんによると、2月上旬に有識者会議から、①名称は漢字の阿見市とする②27年11月に市制に移行する―など「市制移行が望ましい」との答申をもらったので、3月の庁議で決定することになる。ただ、これは町としての方針を決めるだけで、5万人要件をクリアするためには国勢調査(25年10月実施、26年5月公表予定)の数字を待たなければならない。
そのあと、町議会議決→県知事承認→総務大臣承認→県議会議決→県知事決定のプロセスを経て、2年半先の市制施行が実現する運びとなる。「こんなに大変な仕事になるとは夢にも思っていなかったが、町の将来を考えて取り組まなければならない」
町民アンケート調査では、回答の85%が市制に賛成だった。「残り15%の人がどんなことを語っているのか調べ、きちんと回答するよう担当課に言っている」
子育て世代をターゲットに施策
「町長に就任した7年前、人口は4万7300人だった。そのとき目標5万人と掲げたら、できるわけがないと言われた。就任後(JR荒川沖駅に近い)本郷地区を区画整理して住宅地にまとめたことも大きかった」。2月上旬の5万300人が今秋までに5万人割れすることはないかと意地悪な質問をすると「『あみプレミアム・アウトレット』近くに県が開発した計画人口2600人の住宅地がある。入居者はまだ半分の1300人。まだまだ増える」
7年で人口が3000人増えた理由を聞くと、「若い世代に移り住んでもらおうと子育て世代をターゲットにした施策を繰り出した」。具体的には、①18歳まで(非高校生も含む)の医療費無料化②ランドセルを小学生に無料配布③共稼ぎ家庭向けの病児保育の設置(東京医科大学茨城医療センター内)―などを挙げた。
意外だったのは、「移って来る方は、東京圏からよりも、土浦、つくば、牛久など近隣からが多い」との説明。もちろん「今販売中の住宅地『セントラルアベニュー荒川本郷』(175区画)のモデルハウスをのぞいたら、東京から来たという30代の夫婦が6000~7000万円の物件を熱心に見ていた」そうだ。
霞ケ浦の水をきれいにして観光地化
阿見町には、東京医科大学茨城医療センター、茨城大学農学部、県立医療大学といった医療・教育施設があるが、他の自慢スポットを聞いたところ、三菱地所グループが経営するアウトレットのほか、旧海軍航空隊の記録を展示する予科練平和記念館、元横綱稀勢ノ里が親方の二所ノ関部屋、町の北東に広がる霞ケ浦などを挙げた。このうち、霞ケ浦の話を語り出すと止まらなくなった。
「小学2年まで霞ケ浦で泳いでいた。政治家になった理由の一つは、水をきれいにして泳げる湖に戻すこと。やっと実現できそうになってきた」。那珂川と霞ケ浦を地下トンネルで結ぶ導水が計画通り2030年に完成すれば、河川の水が霞ケ浦に入って浄化され、「昔のように豊富な魚種もとれる」と、霞ケ浦による観光地化を展望した。
農業・工業用水に塩分が入ることを嫌って設置された常陸川逆水門(霞ケ浦と利根川の合流点を仕切る水門)についても、「(上げ潮時に水門を柔軟運用するなど)開ければ本当の意味で霞ケ浦を浄化できる。同世代の湖岸の市長たちもそれがよいと言っている」
【ちば・しげる】竜ケ崎一高(野球部に所属)、青山学院大卒後、父が経営する昭和運送に入社(現在は役員)。阿見町議(2000年4月~09年12月)を経て、町長(18年3月~)。62歳、阿見町在住。
【インタビュー後記】阿見町にはJRの駅がない。市制移行を記念して「土浦市から荒川沖駅の周辺を譲ってもらい『阿見駅』にしたらどうか」と質問してみた。「確かに阿見のステータスは上がるが、今は土浦の(駅舎・周辺整備)予算で町民が駅を使わせてもらっている。感謝しかない」。町→市は名をアップさせる施策だが、こちらは経営者町長らしく実を取る回答だった。(経済ジャーナリスト、坂本栄)