【コラム・坂本栄】五十嵐つくば市長2期目の退職金をネット投票で決めるというイベントが終わった。各種メディアでも取り上げられ、多くの市民が市長採点に参加するのではと思っていたが、投票したのは1000人強にとどまった。このユニークな試み、お遊びの域を出なかったようだ。
市民受けを狙った仕組み
投票の仕組みは記事「…市民評価で金額決定へ…」(8月26日掲載)に出ている。議会の受け取りは同「可否同数、議長裁決で可決…」(10月4日掲載)、投票の結果は同「ネット投票の評価は62.7点…」(11月12日掲載)を読んでほしい。
私はコラム191「…退職金問題の研究」(9月16日掲載)で、「採点に参加できるのはマイナンバーカード取得を済ませた15歳以上の市民に限られ、しかも市が用意したスマホ上の参入アプリを使いこなせる人だけが対象になる」「マイナンバー嫌いとネット弱者は市長採点に参加できないから、この仕組みの公平性には疑問符が付く」と指摘した。
そして、どうしても市民投票で退職金を決めてもらいたいのであれば、「無作為に抽出した市民3000人ぐらいから何点付けるかを聞き、その平均点を出して決めるべきであろう」と、非ネット・非マイナンバー方式を提案。さらに、4年前の退職金辞退も今回のネット投票も「選挙での受けを狙ったポピュリズム(大衆迎合)の手法だ」と書いた。
市長落第をギリギリ回避
トップの写真でも分かるように、投票者は1048人だけ。15歳以上の投票資格者は21万8721人だったそうだから、0.48%の有資格市民しか投票しなかったことになる。私が提案した無作為抽出3000人規模の3分の1、しかも投票動員など結果操作が可能なこの方法では、62.7点という評価そのものにも疑問符が付く。
笑ってしまったのは、10点刻みの投票者数分布だ。0点=119人、10点=52人、20点=27人、30点=41人、40点=24人、50点=90人、60点=82人、70点=133人、80点=160人、90点=101人、100点=219人。0点と100点に塊(かた)まっている。
五十嵐市長は2期目最後の会見で、投票結果の62.7点が市長選の得票率53%よりも10ポイント高かったことを強調した。有効投票率に占める自票の割合と市長の業績に対する評価点を比較すること自体、ピントがずれている。大学時代の評価方法(優:100~80点、良:79~70点、可:69~60点、不可:59~0点)を思い浮かべ、不可(落第)をギリギリ回避できたのがうれしかったのだろう。
市論操作に使えるツール
五十嵐市長は、多額の予算を投じてマイナンバーとネットを活用する投票システムを構築した。元々、市長選挙で使いたかったようだが、選挙を管轄する総務省に反対され、自分の退職金決定に流用した。上で指摘したように、投票機会の公平性に問題があるようなこのシステムでは、総務省が導入を危惧したのもよく分かる。
問題は、市の施策に対する市民の受け止め方を調べるツールとしても使おうとしていることだ。機会の公平性や回答者の姿勢に疑問符が付くようなシステムで市論を操作し、入手したデータを市政運営の理屈付けに使いたいのかも知れない。(経済ジャーナリスト)