火曜日, 10月 28, 2025
ホーム土浦土浦 霞月楼所蔵の海軍予備学生 寄せ書き屏風に「全国で唯一残る貴重な資料」 

土浦 霞月楼所蔵の海軍予備学生 寄せ書き屏風に「全国で唯一残る貴重な資料」 

作家 高野史緒さんと学者 清水亮さんがトーク

土浦の老舗料亭「霞月楼所蔵品展」(9月24日付)最終日の29日、作家の高野史緒さんと社会学者の清水亮さんによるトークセッション(9月9日付)が、土浦駅前のアルカス土浦1階 市民ギャラリーで催された。太平洋戦争末期の1944年、特攻に向かう海軍予備学生が霞月楼で催された送別の宴で、勇ましい言葉や芸者の名前などを寄せ書きした霞月楼所蔵の屏風(びょうふ)について、清水さんは「死と隣り合わせの兵士のいろいろな思いが書き込まれており、出征前の遺書にも書かない、20代前後の若者の、赤裸々な等身大の姿だ。(旧日本軍の基地があった全国のまちを調査した中で)土浦に唯一残されている貴重な資料」だと話した。

トークセッションはいずれも昨年、土浦を題材に本を出した高野さんと清水さんの2人が、「ツェッペリン伯号と湖都・土浦を語る」をテーマに異なる視点から土浦について語った。高野さんは昨年7月、土浦を舞台としたSF小説「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」(ハヤカワ文庫)を出版、清水さんは昨年2月、海軍航空隊があった戦前から戦後の阿見と土浦の地域史を紐解いた「『軍都』を生きるー霞ケ浦の生活史1919-1968」(岩波書店)を出版した。

会場の様子

何となく懐かしい感じがする

高野さんは、小説を書く上で自分が生まれる前の話である飛行船ツェッペリン伯号について詳しく調べたと言い、1929年に阿見町に寄港したツェッペリン伯号に同乗した大阪毎日新聞記者の円地与四松(えんち・よしまつ)の貴重な著書「空の驚異ツェッペリン号」を持参し、「高度400メートルから800メートルの低空を飛行し。東京上空を飛んで横浜の上空で旋回し土浦まで1時間で戻ってきた。結構な速さだった」などと話した。

ツェッペリン伯号の船長だったエッケナーについて「ナチス嫌いで、世界一周の後、社会的地位を追われた。円地与四松が『乗組員に手のない人、足のない人がいる』と書いているが、エッケナーは第一次大戦の傷痍軍人を積極的に雇っていた。ツェッペリンの会社は平和の会社だった」などと語った。

「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」に土浦のまちの景色が詳細に描かれていることについては「土浦のことを書いている小説はほとんどないので、土浦を全国に見せてやろうという気持ちだった」と言い、土浦も茨城も訪れたことがない読者から「何となく懐かしい気がする」という感想が寄せられたと明かした。司会者からアニメ映画化が似合っているのではないかという質問が出て、高野さんが「今、口外できない」と答えると、会場から拍手が起こり、期待するムードが高まった。

明るさと暗さがある

一方、清水さんは、かつてツェッペリン伯号の工場と基地があり、現在は新型のツェッペリンNT号が観光飛行するドイツのフリードリヒスハーフェン市を昨年訪れたと語り、「ボーデン湖があり、霞ケ浦がある土浦と似ている。土浦市と友好都市になっていて、『9500キロ先は土浦』という看板もあった」と話した。

自身の研究テーマの基地と地域との関わりについては「明るさと暗さがある」とし、明るい面として「1920年代に霞ケ浦航空隊ができて、土浦は潤い、航空隊が空の港として土浦が世界とつながっていった」と話した。さらに会場から出た質問に答え、住民が基地に対してもつ印象がポジティブかネガティブかについて「基地が出来た時期が重要なポイントになった。大半は戦争末期に土地を強制収容してできたためネガティブだが、土浦は第一次大戦と第二次大戦の間の一息つく時期に造られた」などと話した。

「芋掘り」の一種

霞月楼専務の堀越雄二さんが、レプリカが会場に展示されている海軍予備学生の寄せ書き屏風について説明すると、清水さんは「屏風の寄せ書きは『芋掘り』の一種だった」と説明した。芋掘りは海軍の隠語で、料亭の二次会、三次会で兵士が乱暴を働くこと。堀越さんは「料亭の畳をひっぺ返し、畳を天井近くまで積み上げて、天井の板をぶち抜いて、天井裏をドタドタしたり、わざと芸者の着物に醤油をぶっかけて暴れることがあったが、次の日に(航空隊が)弁償金をたっぷり持ってきた」などと話した。

寄せ書き屏風について説明する霞月楼専務の堀越雄二専務

トークセッションの冒頭、安藤真理子土浦市長があいさつ。会場には100人を超える参加者が集まった。飛行船の歴史や文化史研究の第一人者でドイツ文学者の天沼春樹さんも登壇した。司会は霞月楼所蔵展実行委員会の坂本栄委員長が務めた。会場前のアルカス土浦の広場では「屋台村」が催され、もつ煮込みやスイーツ、ドリンクなどのほか、土浦ツェッペリンカレーが販売され、ツェッペリン伯号の紙芝居も上演された。

美浦村から参加した西山洋さん(68)は「清水さんとは連絡を取り合っていて、清水さんに高野さんの小説を勧められて読んだ。元々SFは読んでいないが、『グラーフ・ツェッペリンー』はとても面白く、難しい科学用語も気にならなかった。今日はとても良い催しだった」と述べた。

アルカス土浦前広場の「屋台村」で披露されたツェッペリンの紙芝居

➡動画「トークセッション ツェッペリン伯号と湖都・土浦を語る」

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

高校総体大会新、アジア選手権で三つのメダル 平泳ぎ 常総学院 中澤心暖選手

目標は「世界と戦える選手」 常総学院高校(土浦市)水泳部3年の中澤心暖(こはる)選手が、8月の全国高校総体女子200メートル平泳ぎで大会新記録で優勝、9月にインドで開催された水泳のアジア選手権で三つのメダルを獲得するなど輝かしい成績を残した。24日に土浦市の安藤真理子市長らを表敬訪問しこれまでの成績を報告。安藤市長は「今後の活躍に期待します」などと激励した。 中澤選手は、高校総体(水泳競技は8月17~20日、広島市ひろしんビッグウェーブほか)の女子200メートル平泳ぎに出場し2分24秒63で優勝。大会新のこの記録は、日本記録に4秒98差で迫る。「高校3年間で一番気合いが入ったレースだった。すごく狙っていたので優勝できてうれしかった」と感想を述べた。ほかに女子400メートル個人メドレーで2位、女子4×200メートルフリーリレーで5位の成果も上げている。 第11回アジア選手権(9月28日~10月1日、インド・アーメダバード)では女子200メートル平泳ぎで2位、女子400メートル個人メドレーで2位、女子100メートル平泳ぎで3位に輝いた。「日本とは違った環境で、周りの選手の強みやレースプランなども分からず心配だったが、レースが進む中で調整でき、いい経験になった」と中澤選手。具体的には「自分の持ち味である後半の強さを生かし、ストロークテンポを上げ過ぎず、落ち着いて自分のペースで泳げた」と振り返る。 中澤選手は古河市出身。保育園の時、古河あかやまスイミングスクールで水泳を始め、古河三中3年時には全国中学大会の女子200メートル平泳ぎで優勝するなど頭角を現した。得意種目の平泳ぎだけでなく、昨年のジュニアオリンピックでは400メートル個人メドレーで優勝しており、どちらでも戦えるような強い選手を目指している。 同校水泳部監督の飯嶋弥生教諭は「レース前は普段通りで、緊張もあるはずだが顔には出さず、控え室でみんなとわいわい楽しくやっており、競技になるとまた別な顔で、闘争心むき出しではないけれど、集中した表情も出てくる」と話す。「あまり緊張し過ぎても硬くなるので、リラックスしつつも緊張感を持ってレースに臨んでいる」と本人の弁。 現在は大学進学を控え「文武両道でどちらも怠ることなく頑張り、世界と戦える選手になっていきたい」と目標を語る。壁谷恵校長も「これから世界に羽ばたく人材。人間的にも大きく成長してほしい」とエールを送る。(池田充雄)

色彩とリズムの饗宴 フランス音楽研究会がサロンコンサート

11月9日 つくば 夢工房 つくばを中心に活動するフランス音楽研究会(阿部理香代表)が11月9日、同市豊里の杜、ギャラリー「夢工房」でサロンコンサートを開く。今回は「色彩とリズムの饗宴」と題し、シャブリエ、ドビュッシー、イベールら19世紀末から20世紀初頭のフランスの作曲家の作品と、同時代の印象派などの絵画作品を合わせて鑑賞する。ピアノ、フルート、歌唱による生演奏と生解説。 ドビュッシーに代表される19世紀末~20世紀初頭のフランス音楽は、ロマン派から印象主義への移行期で、色彩的な響きとモダンなリズムが特徴。手法としては全音音階や不協和音などを取り入れて、よりあいまいな気分や雰囲気を音楽に持ち込み、光や水など自然の情景も生き生きと描き出した。またアメリカやアフリカ、アジアなどの原初的でパンチの効いたリズムにも目を向け始めている。 今回のコンサートの趣向である絵画との取り合わせでは、シャブリエの「幸福の島」「小さなあひる達のヴィラネル」にはルノワールの「ぶらんこ」を合わせる。シャブリエ自身も印象派の画家たちと親しく、何気ない日常を描くセンスも両者に通じるところがある。ドビュッシーの「子供の領分」にはドニの「赤いエプロンドレスを着た子ども」。ドビュッシーとドニも楽譜の挿絵や、舞台音楽と背景美術などで直接の交流があった。イベール「物語」にはバルビエの「マケダ、シバの女王-エチオピア年代記」で異国情緒を、プーランク「村人たち」にはマチス「花と果物」で繰り返す明るいリズムを漂わせる。 プログラムの最後を飾るのはフランセの「ルノワールによる15の子供の肖像画」。ルノワールの絵からインスピレーションを受けた小曲集だ。フランセが選んだ15枚の絵にはあまり表には出てないものも多く、なぜこういうチョイスになったのかは長年の疑問だったが、元になった画集があることを今回フランス音楽研究会が明らかにした。 その画集とはミシェル・ロビダが編纂した「ルノワール―子供たち」。ロビダはフランスのジャーナリストで、ルノワールの伝記も著している。彼の大伯母は印象派の大パトロンであるシャルパンティエ夫人で、ルノワールを社交界に紹介し肖像画家としての道を開いた人物だ。 ロビダが選んだルノワールの絵には、良家の子女ばかりでなくルノワール自身の子どもの絵なども含まれ、いずれもかしこまった姿ではなく、普段の生き生きとした姿や、伸び伸びと自由に遊ぶ子供たちの一瞬の様子を捉えている。「天真爛漫な子どもたちへの愛と、描くこと自体の喜びや幸せが、こうした魅力的な表情を生み出す秘訣なのかもしれない」と阿部さんは推察する。 フランセの曲にも子どもたちへの愛が込められている。今回演奏されるのはピアノの連弾のバージョンだが、低音部を先生、高音部を生徒が弾く練習曲としての側面もある。特にユーモラスなのは12曲目「ピアノに向かって」で、ちょうど絵の中の子どもたちのように、習いたてのたどたどしい姿を再現しており、しっかりと譜面通りに弾かないと作曲者の意図がうまく伝わらない難曲でもある。 フランス音楽研究会は2003年結成。近代フランスの作曲家を中心に音楽、美術、料理、文学などジャンルを超えて研究し、その中から新たなムーブメントが生まれることを目指している。毎年秋のサロンコンサートでは、ホールコンサートとは異なる自由な発想で、観客との歓談の時間なども設け、より密に交流することができる。(池田充雄) ◆フランス音楽研究会サロンコンサート「色彩とリズムの饗宴」は、11月9日(日)、つくば市豊里の杜2-2-5、夢工房で開催。開場は午後1時30分、開演は2時。料金は2000円(お茶付き)。申し込み・問い合わせは電話029-852-7363(阿部さん)へ。 ➡フランス音楽研究会の過去記事はこちら

「自然共生サイト」に認定されました《宍塚の里山》129

【コラム・森本信生】この9月、環境省、農林水産省、国土交通省から、土浦市の「宍塚の里山」、つくば市の「奥村組技術研究所ビオトープ」と「洞峰公園とその近隣公園」が自然共生サイトに認定され、30日に東京で認定式が行われました。 自然共生サイトは、国内だけでなく国際的にも位置づけられる制度です。2021年のG7サミットで採択された国際目標「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」では、30年までに世界の陸域・海域の30%を「健全な生態系として効果的に保全・管理された区域」とすることが掲げられています。 この目標を達成するため、国は23年度に「自然共生サイト」認定制度を創設し、25年度には「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律」を施行しました。今回の認定は、この法律に基づく初の認定です。自然共生サイトは、既存の保護区を除き、OECM(Other Effective area-based Conservation Measures:保護地域以外で生物多様性保全に資する区域)として、国際データベースに登録されます。 これまでに認定された自然共生サイトは、茨城県内で14カ所。土浦市では宍塚の里山が唯一の認定地です。つくば市は7カ所と多く、全国の市町村の中で第4位となっています。 環境教育の場として高い評価 今後、私たちの会は「自然共生サイト増進活動実施計画」に基づき、「生き物と歴史遺産に恵まれた宍塚の里山を次世代に伝える保全活動実施計画」を立て、次世代に向けた保全を目指します。認定にあたり評価された生物多様性上の価値は、次の4点です。 (1)公的機関によって生物多様性保全上の重要性がすでに認められている場(2)里地里山といった二次的自然環境に特徴的な生態系が存在(3)伝統工芸や伝統行事など、地域の伝統文化を支える自然資源の供給の場(4)希少な動植物が生息・生育している、またはその可能性が高いこと 有識者による認定審査委員会からは「本サイトが学生などの活動拠点となり、環境教育の場として活用されている点を高く評価する」とのコメントが寄せられました。 宍塚の里山はすでに、環境省の「生物多様性上重要な里地里山」に指定されています。また、100年間にわたり全国1000か所の自然環境をモニタリングする環境省のプロジェクト「モニタリング1000」における第1号調査地「里山コアサイト」としても知られており、日本を代表する貴重な里山の一つです。 今回の「自然共生サイト」認定は、この地域の価値が国際的にも認められたことを意味します。宍塚から吉瀬(つくば市)に広がる里山の保全活動が、さらに大きな力を得て進展することを期待しています。(宍塚の自然と歴史の会 理事長)

わんわんランドで愛犬と学園祭 つくば国際ペット専門学校

つくば国際ペット専門学校(つくば市沼田)が25日、隣接する犬のテーマパーク「つくばわんわんランド」を1日貸し切りにして、学園祭「第16回犬友祭(けんゆうさい)」を開催した。犬の訓練士や美容師、動物看護師などを目指す学生たちがさまざまな企画を用意し、日頃の勉強の成果を披露した。 混雑するのを避けるため今年も卒業生や家族などを含めた関係者だけでの開催となった。午後からはあいにくの雨になったが、2000人ほどが参加し、駐車場は満杯となった。 ドッグトリマーコース2年生は、来園者が連れてきた愛犬と一緒に写真撮影をしたり、愛犬に似合うリボンの色を選んでオリジナルアクセサリーを作るなどした。愛玩動物看護師コース2年生は、犬や猫の生態などに関する謎解きゲームを実施した。制限時間内にクリアすると脱出出来るという試みだ。ペットケア総合コース2年生は、犬猫や学校をテーマにクロスワードパズルとビンゴを組み合わせたゲーム「クロスワードビンゴリー」を実施。犬3頭の合計体重を当てるゲームなども催された。 フィナレーレを飾ったのは、ドッグトレーナーコース2年生によるドッグ・パフォーマンスショー。同校では、学生が1人1頭の子犬を飼育し、学校での授業を始め、放課後や学生寮、自宅で一緒に生活するパートナードッグ制度を実施している。学園祭では、それぞれのパートナードッグと1年半向き合った成果を、大勢の家族や関係者の前で披露した。学生が「待て」「お預け」「進め」などの指示を出すと、パートナードッグはそれぞれ、指示を出した学生の周りを回ったり、ダンスや曲芸を見せたり、投げたディスクを空中でキャッチしたり、ステージ上に設けたトンネルなどの障害物を駆け抜けたりしていた。 栃木県壬生町から来た玉田豊さん(76)は「孫がドッグトレーナーコースの2年生で、今日のショーに出演するので見に来た。あいにくの雨だけど頑張ってほしい」などと話していた。(榎田智司)