天文学習活動が盛んな県立土浦三高(土浦市大岩田、渡邊聡校長)科学部の生徒が、「木辺鏡」と呼ばれる伝説的な反射鏡を用い、口径206ミリの本格的な天体望遠鏡を組み立てた。16日に校内向けに披露され、5月には一般公開での天体観望会を予定している。木辺鏡は、「レンズ和尚」と呼ばれ戦後日本の天文学発展の基礎を支えた木辺成麿(きべ・しげまろ、1912-1990)が作成したレンズ。
3年生の元木富太さん(17)が組み立てた。科学部顧問の岡村典夫教諭(62)に誘われ、2年次の探究学習で約1年をかけ望遠鏡作りに取り組んだ。反射望遠鏡は、天体からの光を受け取る主鏡と、反射した光を屈折させて観測者に送る斜鏡という一対の光学レンズからなる。2鏡の距離が適切となるよう、鏡筒と支持枠によって再構成し、木枠で台座につなぎとめる作業を行った。
前任の教諭が所蔵
反射望遠鏡の性能は、主鏡(対物鏡)で決まる。木辺鏡はガラスを凹面に磨き、アルミメッキして鏡面仕上げを施したものだ。浄土真宗の僧侶だった木辺は、京都大学花山天文台の中村要技官に学び光学技術者となった。戦後、レンズ磨きの名人として知られるようになり、同天文台のために口径600ミリの反射望遠鏡を作るなどした。
1960年代、主に西日本各地の天文台などに採用されたが、関東地方での採用例は少なく、半世紀を経て、天文ファンの間では伝説的な科学遺産になっていた。この主鏡・斜鏡のセットを個人で所蔵していたのが岡村教諭の前任の地学教諭である宮沢利春さん(75)で、退任後に活用を岡村教諭に託した。
経年変化から反射鏡のメッキが劣化するなどしていたが、岡村教諭が再構築を生徒に呼び掛けたところ、元木さんが応じた。同校科学部は望遠鏡を自作する天体観測などで知られ、その活動は直木賞作家、辻村深月著「この夏の星を見る」(2023年、角川書店)のモデルにもなった。
岡村教諭によれば口径203ミリなら市販望遠鏡の鏡筒が使えたが206ミリの主鏡はこれに収まらない。天体観測ではこの3ミリ差は大きく、アルミ製の円筒3つを三角形の支柱でつなぎ合わせるトラス構造の設計を提案、元木さんが2鏡間の距離や構造の計算を行い、科学部メンバーの協力を得ながら工作に取り組んだ。主鏡を裏面で3方向から支える支持枠の固定に苦心し、留め具のねじ1本から手作りした。
土星の環もはっきり
概ね完成した反射望遠鏡は長さ1.3メートル、重さ11.5キロ、これを市販の三脚に取り付けて天体を追尾し観測する。校内での完成披露は16日に行われ、日没時の観測では天頂部にあった上弦の月を雲間にとらえた。関係した科学部メンバーや教師らが接眼部をのぞき込み「クレーターまできれいに見える」など歓声をあげた。
元木さんは「今回は月を見ただけだが、この口径があれば惑星までとらえられる。土星の環もはっきり見えるはず」と上々の出来に胸を張った。今後、資金的なめどがたてば主鏡の再メッキを行いたい考えで、一般の観望会は5月17日に予定される。(相澤冬樹)