【コラム・瀧田薫】2024年11月の米大統領選挙は、前回に続いて、バイデンとトランプ両氏の対決となった。選挙までまだ半年余りあるが、現時点での各種世論調査結果や投票行動分析の専門家の見方では、トランプ氏の優勢を伝えるものが多数を占めており、選挙はトランプ勝利で決まりといった気の早いご託宣を下す向きもある。

前々回の大統領選(トランプ対ヒラリー・クリントン)では、事前調査の数字はクリントン氏の圧倒的優勢を示していたのだが、結果は「まさかのトランプ」勝利であった。この番狂わせで、選挙予測の専門家や世論調査そのものへの信頼感は大きく損なわれた。

近年、若者を中心に無党派層が増えており、これが世論調査の精度を狂わせる最大の要因となっている。無党派層の動向は極めて流動的で、極端な場合、1カ月いや1週間で潮目が変わることもあり、定点観測たる世論調査の網ではすくい上げにくいのである。

今回の大統領選でも、民主、共和両党の支持者に対するグリップ力の衰えとも相まって、無党派層が勝敗を分ける鍵になると見られている。

A・リクトマン教授の選挙予測理論

世論調査の信頼度が落ち込むと、それに代わる方法が試される。アメリカン大の歴史学者、アラン・リクトマン教授が考案した選挙結果予測理論は、有権者の意識ではなく現職大統領とその政権与党の強さ(支持率)と政策実績を分析対象とする。この理論によって、彼は1984年以降の10回の大統領選のうち9回で勝者を正しく予測してきた(毎日新聞「驚異の的中率を誇る教授に聞く」2023年12月23日付)。

この理論の具体的な方法は、「ホワイトハウスへの鍵」と呼ぶ13の指標を取り出し、その指標ごとに現職大統領と政権与党を査定し、成果が上がったかあるいはライバルに優っている指標については〇を、成果が上がっていないかライバルよりも劣っている指標については✕をつける。

最後に〇の数を数え、13指標中8以上で〇がつけば、現職の再選もしくは政権与党の指名候補者が大統領選に勝利すると判定される。なお、ラクトマン氏は今回の選挙の分析をすでに実施している。

ラクトマン理論が成果をあげた理由は、13の指標を選び出す困難かつ長期にわたる試行錯誤に彼が耐えたこと、さらに13の指標が精妙なバランスを保ってお互いを支え合うように工夫し、それに成功したことにあると思う。ただし、この理論にも欠点がないわけではない。理論に従って予測がされても、その賞味期限は意外に短いということだ。

バイデン氏にまだチャンスあり

そう言っては身も蓋(ふた)もないが、昨年12月時点でのラックマン教授の判定はすでに期限が切れている。今後、適当な時期に彼が再判定を下すのを待つか、13の指標に沿って自分自身で判定を下すこともできる。筆者の最近の判定では、バイデン氏にまだチャンスはあると出た。具体的には、残り半年、経済面(インフレへの対処、財政赤字への対処)で実績を上げることが重要な条件となる。(茨城キリスト教大学名誉教授)