【コラム・三橋俊雄】今回のテーマは「地域をデザインする」です。私は長年、地域を元気にするための活動を、福島、新潟、青森県、京都府などの過疎化・高齢化が進む町や村で行ってきました。それらの地域で、多くの方々から話を伺い、その地で出合った様々な魅力を肌で感じ、あるいは地域の課題を探りながら、その町や村の「これから」についてデザイン(計画・提案)させていただきました。

そうした地域づくりの基本姿勢として、地域が主人公になれるための「内発的」というベクトルを堅持してきたつもりです。

コラム4「南北問題と適正技術」 では、先進国による発展途上国への一方的な援助が、結果として当該地域の問題解決につながらず、そうした中からダグハマーショルド財団の「Que Faire ?(何をなすべきか)」により、「内発的」という概念が提唱されたことをお伝えしました。

日本でも、1900年代後半の過疎化・高齢化対策において、工場誘致や企業誘致などに頼る「外発的」な地域振興策が多くとられてきた中で、果たして住民や地域の自然、社会、文化などが主人公になれる「内発的」地域づくりにつながるのだろうかという疑念を持ちました。

そのような時期に出合ったのが、上のイラストに示した「JRの中吊りポスター」でした。

「内発的」な地域づくりを志向

ポスターには新幹線とホテルやスキー場で楽しむ都会の若者たちの姿が描かれ、キャッチコピーには「例えば新幹線とドッキングしたスキー場の開発」とありました。このポスターからは、目立った産業のない雪国に対して、スキー場を整備して新幹線とつながるリゾートホテルを誘致することで、都会から若者たちが集まり、経済的波及効果によって地域の活性化が図られるという、地域開発のシナリオが読みとれました。

しかし、このような手法によって、自然、歴史、生活文化が生かされ、住民が生き生きと働くことのできる社会を実現することができるでしょうか?

大切な森林が伐採され、若者はスキー場の管理人やホテルの従業員として雇用されるだけという結果にならないでしょうか? スキー場とホテルの完成によって、住民の地域に対する「誇り」や「生きがい」を生み出すことができるでしょうか?

人間は尊厳をもって一個の人格を形成し、自己のアイデンティティーを確立させていきます。同様に、地域づくりの過程においても、「地域格」を形成し、地域のアイデンティティーを確立させていくことが大切であると考えます。そのためには、いかに地域が主人公になり得るかが「鍵」となってきます。

その意味で、「地域をデザインする」というシナリオには、「内発的」な地域づくりを志向するデザイナーの姿勢が不可欠であると考えます。(ソーシャルデザイナー)