【コラム・平野国美】初めての道を歩いていると、前方に商店街があるとか、ここから商店街に入るのだとわかるときがあります。商店が並ぶさまを見て、自分の中で認識する場合と、ある種の構造物を見て確認する場合です。初めての土地を歩いていて心がときめき、10年ほど前から、そういった「昭和の残影」を探すようになりました。
今回の写真をご覧ください。左は商店街の入り口にあるゲートです。ここをくぐれば、その向こうに何かが待っているような気がして、引き込まれていくのです。あちこちで見ますので、昭和の時代にはかなり設置されていたと思います。その残骸も見つけるときもありますし、取り外されたときにニュースになるゲートもあります。
私はアーチとかゲートと呼んでいますが、法律では「屋外広告物」として扱われ、看板、のぼり、横断幕、アドバルーンなどと同じだそうです。「屋外広告物法」によって、大きさ、高さ、内容(景観に配慮しているか)、設置禁止区域などが条例で定められています。
アーチは各自治体の条例で呼び方が異なりますが、「アーチ」「アーチ看板」「アーチ広告」「アーチ型広告物」などと呼ばれています。「ゲート」「商店街ゲート」「ゲートサイン」といった言い方もあるようです。
「純情商店街」「駅通り商店街」
法律や条例のルール内で制作されるので、奇抜なものは作れないと思いますが、そこは看板職人が腕を振るって制作しているのでしょう。商店街を歩いていると、制作された時代が形態や看板のフォントから感じられます。そして、その土地の風土や文化も感じられます。
左の写真は高円寺純情商店街のゲートです。下にある垂れ幕に「キング オブ コント 14代王者 空気階段 鈴木もぐらさん おめでとう」と書かれています。この街を愛して住んでいる芸人の受賞を祝っているのです。この後、「高円寺芸人」と呼ばれました。
元々、「高円寺純情商店街」という名は存在しませんでした。本当の名前は「高円寺銀座商店街」でしたが、この街の乾物屋の家に生まれた「ねじめ正一」さんの「高円寺純情商店街」が直木賞(1989年)をもらった後、今の名称になりました。風土、文化、サブカルをうまく生かした商店街とゲートなのです。
こんなゲートを近くで楽しみたい方は、常総市にある「水海道駅通り商店街」のアーチが参考になります。右側の写真です。各地にある古典的スタイル、昭和を感じる手書きのフォントなどが見られます。私は時々、夕暮れ時、ここで黄昏(たそがれ)ています。商店街のゲートはなかなか奥深いものがあります。(訪問診療医師)