【コラム・先﨑千尋】3月30日の新聞各紙は、29日に東海村と周辺5市とで構成する原子力所在地域首長懇談会が、東海第2原発の再稼働を巡り、日本原子力発電(原電)と新たな協定を結び、事前同意権を5市にも認めることを伝えた。このニュースは、本県の住民だけでなく、原発が立地する周辺市町村の住民にも大きな影響を与えることになろう。
朝日新聞は早速「天声人語」と社説で取り上げ、「『茨城方式』を全国に広げたい」と訴えた。原発が多く立地する福井県の隣の京都新聞は「国も、原発の『地元』の定義を見直すべきだ」と書いている。茨城新聞も社説で「万一、重大事故が起きた場合の第一の被害者は地域の住民である。原電や自治体の対応ばかりでなく、安全協定が地元の意思を反映できる存在となるのか、住民の姿勢も鍵を握る」と、住民の動きが大事だと訴えている。
思い返せば5年半前、東京電力福島第1原発事故の影響が広範囲に及んだため、東海村の村上達也村長(当時)が周辺自治体の首長に呼び掛けて首長懇談会を作り、原発再稼働の事前同意権が東海村にしかなかったものを、水戸市、ひたちなか市、那珂市、日立市、常陸太田市にも拡大するよう原電に要求した。昨年11月になって、原電はやっと「実質的な事前了解の権限を水戸市などにも認める」と回答した。その後、新協定の文言を巡って首長懇談会と原電との間で交渉が続けられ、29日の調印にこぎつけた。
東海第2原発は今年11月に運転期限の40年を迎える。国の規定では原子力規制委員会が認めれば20年の運転延長が可能だが、東海村以外の了解を取り付けないと再稼働は困難と原電が判断したことが背景にある。
考えてみよう。原発がひとたび事故を起こせば、人為的な市町村境と関係なく周辺の住民に大きな影響を与えることは、福島の事故ではっきりした。放射能は箱根の山近くまで飛び散ったのだ。チェルノブイリ原発事故では被害は国境を越えた。今回は福島の事故の例から30㎞圏内という目安になったが、「東京の住民はどうするの」と思ってしまう。
住民の姿勢はどうなのか。常陸太田市や水戸市、那珂市では、3月議会に「東海第2原発再稼働に反対する請願書」や陳情書が出された。那珂市では十分な審査が行われず継続審査になったが、常陸太田市と水戸市では可決されている。今後ひたちなか市などでも同様の請願が出されるようだ。那珂市は、住民の意向調査で6割が反対していることを受けて、海野市長が本会議で「再稼働反対」と表明している。
折しもこの14日、水戸市で小泉純一郎元総理の講演会が開かれる。小泉さんは原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟顧問として今や反原発の旗頭となっている。当日の予約席は満席だとか。それだけ関心が高いことを示している。昨年の茨城県知事選挙でも、再稼働反対を表明した橋本・鶴田票が、態度をあいまいにした大井川票を上回った。
「たかが電気を起こすのに危険極まりない原子力は要らない」という素朴な声を県民の多くが上げ続けることが、東海第2原発を止めることにつながる。(元瓜連町長)