【コラム・若田部哲】茨城県唯一の重要伝統的建造物群保存地域である桜川市真壁地区。この歴史ある街並みで開催される「真壁のひなまつり」は、2003年より地域有志によって行われ、24年で第20回目を迎えます。今回はこのおまつりについて、第1回開催時からの有志の一人、柳田隆さんにお話を伺いました。
現在では6万人もの観光客が訪れる、桜川市の一大行事となったこのおまつりですが、そのスタートは地元住民の素朴な話し合いから生まれたものだそうです。02年に登録文化財の数が10軒ほどとなり、春や秋に地域を散策する観光客が以前より増えると、わざわざ足を運んでくれる人たちを、何かおもてなしすることはできないだろうか、という声が自然に上がり始めました。
そんな折、たまたま立ち寄った山形県で、家々におひなさまを飾り、訪れる人たちに見てもらっている光景を柳田さんは目にします。「古いお雛(ひな)様が、真壁でも家から出てくるのではないか?」そう考え、真壁に帰りすぐ皆でおひなさまを探すと、昭和や大正のものだけでなく、江戸時代のものまで見つかったそうです。
「おもてなし」の心を第一に
そうして、見世蔵や土蔵・石蔵・塗屋といった伝統的な建物の中を、様々な時代の個性豊かなおひなさまが彩った、和の風情あふれる第1回目のおまつりが始まりました。街を訪れる人達が喜ぶ様子を見て途中から参加する家も現れ、スタート時に21軒だった参加会場は最終的には43軒まで増加。当初用意していた案内図の内容が、日を追うごとにどんどん変わっていったそうです。
また開催にあたり、ただおひなさまを並べて見てもらうだけのものにせず、「おもてなし」の心を第一に、おひなさまを通じ、地域を訪れた方とのコミュニケーションを心掛けたそうです。おひなさまと伝統的町並みが織りなす風情や、地域の人達とのあたたかな交流は好評を博し、回を重ねるごとに参加する家は増えました。東日本大震災や新型コロナウイルスの感染拡大といった試練を乗り越え、20回目となる24年の開催では127軒の家々が参加予定です。
高齢化などにより最盛期より参加する軒数は減っているものの、地域にとっては地元再発見と愛着形成の機会となり、観光客には真壁の良さを感じてもらえるこのおまつりを、大切に続けていきたいと柳田さんは穏やかに語ってくださいました。開催は毎年2月4日から3月3日まで。伝統的な日本の風情とおもてなしの心を味わいに、ぜひお出かけください。(土浦市職員)
<注> 本コラムは「周長」日本一の湖、霞ケ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。
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