【コラム・平野国美】歴史的な建物を眺めていると、私など飽きっぽい性格の者には別の刺激が必要になってくるのです。あんなに好きだった白壁の町などには目が引かれなくなるのです。そして、古い看板建築、商店建築、医院建築、理容店などを探して歩くのです。
しばらく街歩きが止まった時期がありました。また歩き始めると、まったく別なものが視界に入ってくるのです。昔嫌いだった飲み屋街とかトタンで出来たバラック小屋などが、ある時期から愛(いと)おしく見えてきました。
私の目が肥えたのか劣化したのかはわかりません。昔、旅の途中で、ある写真家の講演を聞きました。東南アジアの生活や街角の風景を撮っている方でした。その作品を見ながら、まとまらぬ頭をまとめるために質問をしてみました。
「歴史的な寺社仏閣、城、蔵、白壁の街は、年を重ねるごとに保存さえうまくいけば、その価値を増していくと思いますが、昭和や平成の建造物などはいずれガラクタになっていくのでしょうか?」
写真家の先生は「コンクリートやトタンの建物も、きっといい味わいを出してくると思いますよ」と答えてくれました。そうなるかなと疑心暗鬼でしたが、あるときから、そういった建物が愛おしく見えるようになったのです。
地域の日常に溶け込んだ小建築
ネットで調べると、このジャンル「街角遺産」の愛好家がいるのです。2011年グッドデザイン賞受賞時のセカンドブレイン(secondbrain)代表の多田裕之さんの言葉を紹介しておきます。
「『街角遺産』には文化財のような価値は無いが、地域の景観と日常に溶け込んだ小建築のことで、私たちの造語です。崩れかけた土塀だったり、錆びたトタン小屋だったり、通り沿いの空き家だったり。地域に溶け込んだ建物たちが紡いできた地域独自の風景を次の時代へ伝えたいと考えています」
「この活動は、地域に残る『街角遺産』をリストアップして、企業や個人によるリノベーション&コンバージョンにより、街角遺産の活用を促進することが主目的です。『街角遺産』という新たなカテゴリーを創出して、街の記憶づくりを展開したいと思います」
形あるものはいつか壊れていく。しかし、リノベーションをしながら、本来の目的とは異なるものにコンバージョンして、建物などを残していくべきだと思うのです。こういったものに気づける感性が、街づくりや街の維持に必要と思うのです。今回掲げた写真は私が生まれた龍ヶ崎に残るトタンに描かれた看板です。Technicsの文字が入っていますが、何でしょう?(訪問診療医師)