【コラム・玉置晋】母の実家の墓参りのために常磐高速道を茨城から北上し、現在、仙台空港近くのパーキングエリアで休憩中。花粉症のため、ティッシュボックス片手に本コラムのネタをどうするかを考えていると、飛行機が飛び立っていく。
今回の旅行は母との2人旅。助手席でお茶を飲む母は「あれは何だ、これは何だ」と好奇心旺盛に聞いてくる。飛行機を見ながら、「飛行機って風にのって飛んでいくじゃない。でも宇宙で飛行機って飛べるのかしら。そもそも宇宙に風ってあるのかしら」と難問を突き付ける。
後期高齢者と言われるのを嘆く元高校教員、恐るべし。今回のコラムのネタいただきました。
飛行機が飛ぶ原理を説明するのは容易ではないので、それをネット環境にない車内で母に説明してみようとは思わない。流体力学のベルヌーイの法則から揚力の説明を行うのが王道なのだろう。宇宙船の飛行原理と飛行機の違いについても、質量保存の法則の説明を行う必要がある。花粉症で思考停止寸前の僕には無理なので、賢明な読者の皆様は身近な賢者か、グーグル先生に聞いてみてください。
とりあえず母には「残念ながら宇宙では飛行機は飛べない。でも風はある」と答えました。もちろん、憂鬱な花粉を私の鼻に運んでくる春の風の様な、体感できる風圧を宇宙で感じることはないでしょう。宇宙は真空と表現することもありますが、厳密には嘘です。
地球の大気は高度が上がるにつれて減ります。ゆえに、エベレスト登山家は酸素ボンベを携行しないと危険です。国際宇宙ステーションが飛行する高度400kmでも、わずかながら大気があります。10のマイナス11乗気圧!地上の1000億分の1の気圧です。
でも、わずかな大気が面倒なことを引き起こします。チリも積もれば山となる。そこに大気の分子や原子が1個でもある限り、宇宙ステーションや人工衛星などの宇宙機に衝突すれば、抵抗となります。そして宇宙機の速度が落ち、すなわち遠心力が失われ、「地球の重力の井戸」に落ちていきます。
生きている宇宙機は、落ちないように定期的に制御を行います。具体的には、推進剤やイオンを吹き出して加速し、高度を上げてやります。
本コラムを書いているのは2018年3月30日です。上記に関連したある厄介事が宇宙で進行中です。中国の宇宙ステーション「天宮1号」が制御不能になっています。その高度は徐々に低下し、高度200kmを周回していますが、間もなく大気圏に落ちます。大部分は大気摩擦で燃えますが、一部が地上に落下するといわれています。
どこに落ちるかは、直前までわかりません。本コラムが掲載されるころには落ちているはずです。「特に被害もなく、よかったね」となっていることを祈ります。(宇宙天気防災研究者)