【コラム・瀧田薫】2024年は、「米中新冷戦」が本格化する1年となるでしょう。第2次世界大戦後の世界は、約80年間、米英欧が主導する戦後システム(国連、自由貿易体制など)に支えられてきました。しかし、22年2月、ロシアによるウクライナ侵攻を契機として、世界は新たな戦前(第3次世界大戦の可能性をはらむ)に突入したと思われます。本稿では台湾有事が起こる可能性を探り、併せてこれからの時代と世界を考えます。

23年6月の台湾国民世論調査では、対中関係について「現状維持」を求める人が60%を超え、独立志向の25%や統一志向の7%を上回りました(毎日新聞23年12月17日付)。台湾国民の対中意識は割れましたが、回答者全員に「台湾有事」に対する強い危機感があることは確かです。

軍事専門家や国際政治学者の間でも、台湾有事に関する判断は分かれています。起こらないとする根拠としては①中国軍の近代化が不十分、米軍と台湾軍の反撃は甘くない②中国軍兵士の大半が「一人っ子」であり、膨大な戦死者が出れば政府批判に火がつく③侵攻よりも台湾国内の親中派による傀儡(かいらい)政権を樹立する方が良策―といった考えです。

他方、起こるとする根拠としては①「民主制をとる自由な台湾」は中国政府の一党独裁支配を脅かす危険な存在②経済政策の失敗、その他に対する国民の不満を外に逸らす必要がある③米軍はロシア軍のウクライナ侵攻、その他への対応で手一杯、この機会を見逃すな④習近平氏は高齢だけに持ち時間に対する焦りがある―といったところです。

国家と党の安全を優先する中国

ちなみに、23年12月23日、北京で毛沢東(1893~1976年)の生誕130年祭が開かれ、習氏は毛の事業を引き継ぐと宣言し、悲願である台湾統一の重要性を強調しました。識者は、習氏の演説に政権の正統性に対する自信のなさを見ています。

毛の死後、党と政府は改革・開放路線を採ってきましたが、習氏はこの路線の行き過ぎが共産党一党支配を掘り崩すとして警戒し、国家と党の安全を優先する政策(経済における国家の役割拡大、中国民間資本に対する圧力、外資に対する制限)を打ち出してきました。最近の中国経済の変調については、こうした習政権の政治姿勢による影響が大きいと思います。

最近、中国経済のピークアウトを指摘する西側の経済専門家も増えていますし、中国政府内にも経済の先行きを懸念する声は高まっているようです。

ともあれ、中国では「絶対権力者習近平氏が不合理な命令を下しても従う」という、権威主義国家ならではの慣性が働くことは確かです。そこから、「台湾有事」は習近平氏の決断1つにかかっているという見方が出てきますが、もう毛沢東の時代ではありません。習政権は中国経済ひいては世界経済から自由な存在ではありません。

したがって、米国や日本の対中国政策の眼目は軍事と経済のバランスに腐心することです。中国に塩を送る必要はありませんが、台湾有事を回避するために、中国とのデカップリングは避けるべきでしょう。(茨城キリスト教大学名誉教授)