【コラム・若田部哲】農業大国・茨城県の中でも屈指の農産物生産地、鉾田市。メロンをはじめ、イチゴやゴボウ、水菜など、様々な農産物の生産量が全国トップクラスを誇っています。そんな中、銀座千疋屋やペニンシュラホテルなど、一流店で愛用される高品質なイチゴを栽培する「村田農園」代表の村田和寿さんに、農園の歴史と栽培にかける思いを伺いました。

村田さんは農園の2代目で、かつては春先にメロン、冬場はイチゴを栽培。それが25年ほど前、イチゴの品種が「女峰」から現在の主流品種「とちおとめ」に移ると、冬場から春にかけてもイチゴが出荷できるようになったため、イチゴ生産に特化することにしたそうです。

主力の品種は現在でも「とちおとめ」。甘味・酸味・香りのバランスの素晴らしさに加え、棚持ちが良く、今もってこれを超えるものは難しいと、村田さんはその品質に太鼓判を押します。

村田さんのイチゴが高級店で愛用されるようになったのは、2008年の洞爺湖サミットの頃。卸先の一つである築地で、ペニンシュラの野島シェフの目にとまったことがきっかけで、一躍パティシエ業界での認知度が高まったそうです。

ただし、村田さんのイチゴが売れるようになったのは、たまたま運が良かったから、ではありません。そこに至るまで、さまざまな栽培上の工夫や販売方法の工夫がなされた上での、必然的なものだったことがお話からわかりました。

丹精した「赤い宝石」

イチゴ生産の最盛期は12月から1月後半、その後春先まで収穫が続きますが、第一に重要なのは「土づくり」。天敵製剤などにより極力農薬を抑えつつ、自家製堆肥を加え攪拌(かくはん)した土壌を1カ月以上発酵させ、良質な土をつくります。

苗にもこだわり、良い系統のものから厳選。さらにハウスごとに状態を細かく観察し、それぞれ微妙に異なる最適な栄養素を見極め、個別に栄養管理をしているそう。見せていただいたハウスのイチゴの苗は、大きく厚く色も鮮やかな葉で、とても生きの良さが感じられました。

村田さんのこだわりは、収穫後も続きます。繊細な果実であるイチゴを、鮮度を落とさず消費者まで届けるため、包装にも並々ならぬ力の入れようです。何タイプかある包装に共通する考え方は、イチゴが箱に触れるのを「点」でなく「面」にし、傷みを抑えるというもの。

最も高品質なイチゴを納める包装の名は、その名も「ゆりかーご」。箱にイチゴ型にくぼんだ薄いフィルムが張られており、そのくぼみに1個ずつ納めるというものです。それはまさに揺り籠のようで、これほど繊細に扱うのかと、驚きを禁じえませんでした。

また、パッケージデザインにも一目で村田農園とわかる、イチゴのみずみずしさとスタイリッシュさを兼ね備えたデザインがなされ、ブランディングにも一切手を抜いていません。こうした積み重ねがあるからこそ愛されているのだと、深く納得です。

そんな、イチゴにひたむきな情熱を注ぐ村田さんに、イチゴ生産の魅力を伺うと「消費者の声が直に聞ける点」とのこと。卸先の「生産者カード」などを通じ、「おいしかった!」と届く声が、何よりの喜びだそうです。この冬も、村田さんが丹精した赤い宝石が、たくさんの家々で笑顔を生み出すことでしょう。(土浦市職員)

<注> 本コラムは「周長」日本一の湖、霞ケ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。

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