【コラム・小泉裕司】好条件に恵まれて、「土浦の花火2023」は無事に幕を閉じた。とは言え、途中、10号玉が上空で開花せず落下、地上開発(爆発)、競技中断のアクシデントもあった。詳細は、記事「地上で10号玉開き10分間中断」(11月6日掲載)をご覧いただくとして、今回は、前回の「土浦の花火 歴史と見どころ」(11月3日掲載)に沿い、受賞作品を中心に大会を振り返ってみたい。

全日本種目別選手権

国内最高峰の内閣総理大臣賞は、大曲の全国花火競技大会と土浦全国花火競技大会のみに授与されている。大曲は、28社限定、各社4種目に出品し順位を争うことから、「全日本総合選手権」。土浦は、今回57社が2種目以下に出品、3種目の優勝者から選ばれることから、「種目別選手権」に例えるとわかりやすい。 

10号玉の部

優勝は、昨年に続き、山﨑煙火製造所(つくば市)の十八番(おはこ)「昇曲付五重芯銀点滅」。相変わらず見事な消え口の「銀点滅」に加えて、今年は「芯」の見え方を少し変えたことで、残像がより印象的になった。

上位入賞した野村花火工業(水戸市)や小松煙火工業(秋田県)もいつも通りと言いたいところだが、優勝作品以外は芯の乱れが気になり、結局、6社による五重芯対決は、昨年から安定した成績を残している山﨑煙火の1強という印象。

上位5作品には、「自由玉」2作品が入賞。北陸火工(新潟県)の「椰子芯入り」は、大きな盆と星先変化が特徴。マルゴー(山梨県)の「瞬き閃光」は、色彩豊かな星々をこれでもかと点滅させた。歓声が、審査席に届いたのだろう。

創造花火の部

優勝は、型物花火を復活した北日本花火興業(秋田県)の「夜空にしんちゃん!オラは人気者」。これで17回目の優勝。

準優勝は、芳賀火工(宮城県)の「軌跡を見せます!!トライ&ゴール」。技術貢献度の高い作品に贈られる日本煙火協会会長賞も受賞。特等の北陸火工「ジュワッと揚げたて!えびFLY」とともに、見る前から「想像力」をかき立てるタイトルと奇想天外な花火センスはぴかいち。会場を大いに沸かせたが、残念ながら「型物の神様」に、つま先分及ばなかった。

和火屋(秋田県)の「ゴッホのひまわり」やファイアート神奈川(神奈川県)の「スマイル×スマイル=」などを含めて、創造花火の部は、その名の通り、花火師の創造性を存分に発揮した作品ひしめく狭き門となり、入賞者一覧からも、順番を付けなければならない審査員の葛藤が垣間見えるよう。 

スターマインの部

優勝した菊屋小幡花火店(群馬県)のスターマイン「風神雷神」は、実は8月の大曲に出品した「風神雷神炎舞」のリメーク作品。閃光雷や群声、十八番のフレッシュグリーンを場面ごとに散りばめながら、圧巻の連発でエンディングまで息もつかせぬ怒濤(どとう)の展開。

大曲より100発多い、土浦の400発以内というレギュレーションを存分に生かした、音と光の迫力ある「速射連発型」の作品に仕上げてきた。

5代目小幡知明(としあき)社長は、表彰式のあいさつで、勝利へのこだわりや地元群馬県へのふるさと愛を披露しつつ、遅い打上順番や客席に一番近い打ち上げ位置など、幸運にも恵まれたことを勝因に挙げ、その謙虚なメッセージは私を泣かせた。思えば、今年の花火初めは、1月2日、菊屋小幡花火店の「New Year HANABI」(1月15日掲載コラム)だった。

内閣総理大臣賞

内閣総理大臣賞は、今回もスターマインの部の優勝者が受賞。これで20回のうち、19回がスターマインの部から、1回が10号玉の部からとなった。

「スターマインの土浦」と呼ばれていることから、至極当然のようだが、10号玉の部優勝の山﨑煙火はスターマインの部でも入選。秀作・奇作多数の創造花火の部の充実ぶりもあって、もしかしたら「総理大臣賞はスターマイン以外から!?」という、淡い期待を抱いて帰路に着いたのだが…。

いつまでも、至極の花火作品を堪能した感動の余韻に浸っていたいのだが、すでに来年の花火大会に向けた「宿取り」レースがスタート。遅ればせながら参戦すべく、本日は、この辺で「打ち止めー」。「ドン ドーン!」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)