【コラム・奥井登美子】♪ むかし恋しい銀座の柳 ♪ ♪ 「東京行進曲」という歌があった。あの柳は銀座の、どのあたりだったのだろうか? どの町へ行っても、柳の並木があって、そこが、その町の、古い店のたまり場所で、町の名物などを売っていた。
今は、どの町にいっても「柳の並木」がなくなって、高層ビルばかりがひしめいてしまっている。
柳の樹皮の成分はアセチルサリチル酸。ブドウ糖と配糖体となって樹皮に含まれている。解熱鎮痛薬として、今でもたくさん処方されているのがアスピリン。バイエル薬品で出しているのが「バイアスピリン」。
アスピリンは、酸性の胃の中で、痛みを起こす体内物質の、プロスタグランジンを作るのに必要な酵素の働きを抑えてしまう。そこで、錠剤は胃で溶けないで、腸へ行って初めて溶ける「腸溶錠」になっている。
製剤上も、何年か前、薬剤師の話題になった優れた薬品で、副作用も少ないから、今でもかなり人が飲んで痛みを抑えてもらっている。
歯痛には柳の爪楊枝
柳の枝の歴史は古い。ヨーロッパではローマ時代から鎮痛作用があることがいわれてきた。日本でも京都の三十三間堂は、棟木に柳の木を使って、「頭痛封じ」を祈ったという。
昔、歯科医、歯科医院などがなかった江戸、明治時代。歯や歯茎が痛い時、柳の枝で作った爪楊枝でつつけば、植物から自然のアスピリン成分が出てきて歯茎の痛みが取れたという。
柳の枝で作った「爪楊枝」は、アスピリンが含まれているから歯茎の痛い時に、これを使って歯茎をほじると痛みが取れるとあって、少々高くても人気があったらしい、吉原の美人の花魁(おいらん)が、爪楊枝(ようじ)で自分の歯を手入れしている浮世絵があれば面白い。
「柳の枝のツマヨウジ、って、今、どこかで売っているかしら?」「歯医者さんへ行った方が早いよ」。土浦も柳の並木はなくなってしまったが、丁寧な歯医者さんが多い。私は胸を張って、土浦の名物は親切な歯医者さんだと思っている。(随筆家、薬剤師)