【コラム・原田博夫】9月初旬、インドネシア大学を訪問した。専修大学の研究グループが日本学術振興会の助成を受けた若手研究者ワークショップに、アドバイザーとして参加するためである。参加国は、日本、インドネシア以外に、韓国、台湾、モンゴル、フィリピン、ベトナムなど7カ国に及んだ。
私にとっても、コロナ禍で学会出張(米カリフォルニア州)を直前で取りやめた2020年3月以来の海外である。実はこの間に、海外旅行に関わるいろいろな申請手続きが変わっていた。
海外旅行保険やビザも、電子申請が推奨されているだけでなく、(従来は機内で記入していた)入国時の免税申告も事前の電子登録が推奨されている。これらの変更は接触機会をできるだけ削減する効果もあるが、利用者にはこれらの申請に結構なストレスと時間がかかる。現時点では利用者の負担の方が大きい。
実際の現場でも、すべての利用者が一様には準備・対応できていないので、搭乗や入国の流れは必ずしもスムーズではない。
2015年(前回)以来のジャカルタの交通渋滞は、さらにひどくなっていた。ジャカルタ首都特別州の人口(2020年9月の国勢調査)は1056万人。近郊を含めると3000万人を超え、東京に匹敵しているが、増加は止まらない。その結果、ジャカルタの交通状態は“世界最悪”との評もあるが、基本都市基盤と人口増加が整合していないことがそもそもの原因ではないか、と感じた。具体例を三つ挙げてみよう。
首都移転は「打ち上げ花火」?
第1に、交通信号(赤・青<緑>・黄)が少ないと感じた。市内の主要交差点には設置されているが、なかなかそうした交差点には遭遇しない。推測だが、こうした交差点は元は(交通信号を必要としない)ランドアバウト(環状交差路)だったのではないか。しかし現在は、ランドアバウトの数はわずかだと聞いた。そうすると、電力事情の逼迫(ひっぱく)もあるのか。
第2に、オートバイによるオンラインタクシーがすさまじいまでに普及していて、路上を縦横無尽に駆け回っていた。Go-JekやGrabというマーク入りのグリーンのウィンドブレーカを羽織ったオートバイが、地下鉄駅やバス停近くにたむろしていて、客からのオファーを待っている。その客というのは比較的若い世代で、男女を問わない。
第3に、最も驚いたのは、交通信号が設置されていない交差点や車線変更地点には、パオガと呼ばれる交通整理人(警察ではない)が道路の真ん中で、車の通行を誘導している。パオガは、誘導した車が方向転換に成功した瞬間に、ウィンドーを開けたドライバーから硬貨500~1000ルピア(4~8円)を、ドライバーが外国人の場合は紙幣2000~5000ルピア(16~40円)を手品のように受け取る。
この危険な仕事に就いている人々に、労災はおろか、いかなる意味でも保険・手当などがつかないことは明らかである。
こうした交通渋滞を解消するべく、ジョコ大統領は2019年8月に、首都をジャカルタからカリマンタン(ボルネオ島)に移すことを発表し、完成目標は2045年としているが、その進捗(しんちょく)ははかばかしくない。先行の類似案と同様に、単なる打ち上げ花火なのだろうか。(専修大学名誉教授)