国内外で活躍する14人の若手作家による写真を中心とした作品展「ヴィジュアル・コミュニケーション展2023ーレジリエンス:不確実性のうちを生きる」が、12日から県つくば美術館(つくば市吾妻)で始まった。主催は市内在住の写真家、田嵜裕季子さんが代表を務めるビジュアルコミュニケーション研究会。田嵜さんが教べんをとる日大芸術学部で写真を学んだ卒業生らが参加する。同会による展覧会は2011年4月に始まり、今回で7回目を迎える。
これまで展覧会では、その時代の世相を映像で表現することに努めてきた。今回のテーマを「不確実性」にした理由を田嵜さんは「私たちの元には、AI、コロナ、戦争など次々に起きる問題が、多くの情報と共に毎日押し寄せ、まるで霧の中を手探りで歩いているような時代を生きている。今が『不確実』であるとあえて言うことで、この時代を誰もがたくましく生き抜くことができればという思いを込めた」と説明する。
会場には、戦争の記憶を写真で表現する菊田真奈さんの「安らかに眠ってください 過ちは繰返しませぬから」▽横になれないよう真ん中に肘掛けを付けたベンチなど公共空間の「排除アート」をテーマにした阿部隼也さんの「The Appearance of Spaces(ゼ・アピアランス・オブ・スぺイシス)」▽施設に入所した祖母と向き合う飯田茜さんの「Unsicherheit(ウンジヒャーハイト)」など全14作品が展示されている。
相対化、問いかけ
出展者の一人で写真家の三橋宏章さん(38)は、これまで東海村の原子力関連施設や東京都千代田区にある千鳥ケ淵戦没者墓苑など、社会的な問題を抱える風景を写真にし、発表してきた。今回展示するのは数年前から取り組む国立公園をテーマにした「風景、まなざし、国立公園」。釧路湿原や富士山、瀬戸内海、屋久島の森など6カ所の写真を展示している。
千鳥ケ淵戦没者墓苑に関心を持つ中で、同墓苑の植生を設計した造園学者、田村剛氏が、日本の国立公園の「産みの親」であると知ったのが、このシリーズに取り組むきっかけになった。その目的を三橋さんは「国立公園は『日本を代表する自然の風景地』として法律で政治的に定められた『日本』を表すもの。それを写真にすることで日本という国を相対化して見ることができるのではないかと考えた」と話す。写真中央に、三橋さんのカメラに背を向け壮大な風景に見入る観光客が映り込むのが特徴だ。「不確実性の高い現代で、人間や社会を超えた存在を求めているようにも見える。そう駆り立てるものを写真で表現したかった」と作品への思いを語る。
地方都市の文化とコミュニティーをテーマに作品を作る浦邉俊考さん(23)は、故郷の房総半島と、そこと歴史的なつながりを持つ紀伊半島を舞台とした写真6点を展示する。民俗学者・柳田國男が説いた「黒潮」の流れに乗って移動した人の営みに、二つの半島のつながりを見出すとともに「地域らしさ、幸せとはなにか」を問いかける作品だ。
社会に向き合うきっかけに
SNSやニュースに動画が増えるなど表現手段が多様化している中、主催団体代表の田嵜さんは「私たちは、わかりやすく短時間で説明された情報を見せられ、無意識に消費しているが、写真は、そこに立ち止まって自分で読み解くという側面がある。若い作家たちが向き合っている『今』に出会うことで、より主体的に社会に向き合うきっかけにしてもらいたい」と来場を呼びかける。(柴田大輔)
◆「ヴィジュアル・コミュニケーション展2023ーレジリエンス:不確実性のうちを生きる」は県つくば美術館で開催。会期は18日まで。開館時間は午前9時半から午後5時、最終日のみ午後3時まで。入場無料。18日は、国内外で開催されるフォトフェスティバルの企画等に関わるキュレーターの菊田樹子さんと参加作家によるトークイベントが11時から開催される。問い合わせはメールで。