つくば市内の11の福祉団体が21日、連名で「(通称)つくば市障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進条例の制定施行」に関する要望書を、五十嵐立青市長に手渡した。国が昨年施行した障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法に基づき、情報の取得・利用や意思疎通に困難を伴う障害者への自治体レベルでの支援施策を求める。
五十嵐市長は「今の情報社会の中で、前提となる情報を受け取れないのは、あらゆる問題の出発点。どのような技術があれば、どんな障害があってもコミュニケーションが可能なのかを、当事者の方と相談しながら、実効性のある条例をつくっていきたい」と述べた。
土浦は今月、手話普及の条例施行
要望書によると、聴覚障害者の中でも、日常生活で手話を言語として使用するのが聾(ろう)者だ。聾者の場合、周囲とコミュニケーションをとるには手話通訳が欠かせない。つくば市は、市在住の聴覚障害者に手話通訳者を派遣しているが、個人の趣味や政治活動のためには派遣されない。
また、高齢になった聾者が老人ホームなどに入所する時、他の入所者や職員は手話が分からないため、会話ができず、孤立するという問題もあるという。
全日本ろうあ連盟(東京都新宿区)の調べによると、手話を言語として認める手話言語条例は全国に広がっていて、茨城県と県内3市が制定している(4月18日現在)。土浦市では、昨年3月、同市聴覚障害者協会が市議会に手話言語条例の制定を求める請願を提出。今月、「市手話言語の普及の促進に関する条例」が施行された。
一方、今回つくば市に提出された要望書では、日常生活で手話を使用する聾者に特化した「手話言語条例」ではなく、手話を使わない聴覚障害者や、印刷物を読むことが困難な視覚障害者、失語症などにより発話が難しい障害者なども支援の対象にする「情報・コミュニケーション条例」の制定を求める。県内で同様の条例を制定しているのは水戸市と笠間市の2市。
団体間で学習、検討重ねる
要望書は市聾者協会が中心に作成したが、知的障害や肢体不自由、高次脳機能障害など、多様な障害種の17団体で構成される市福祉団体等連絡協議会の中でも、条例に関する学習会を重ね、要望書の内容を検討した。
市聾者協会の末森明夫会長(60)は「手話言語条例では、聾者や聴覚障害者だけの支援にとどまってしまう。情報・コミュニケーション条例を制定し、手話も、障害者が情報取得や意思疎通のために使用する手段の1つとして位置づけた方が、多様な障害を持つ人たちと協力し、コミュニケーションの問題を解決していけるだろう」と話す。
連名で要望書を提出した、知的障害者などに高校卒業後の学びの場を提供する「茨城の専攻科を考える会」理事長の船橋秀彦さん(67)は「知的障害者もコミュニケーションが苦手なため、生活しづらさを感じることが多い。様々な当事者の声を反映した条例になってほしい」と話した。
要望書では、障害者や障害児の保護者を委員にした条例策定委員会を設置し、当事者や家族の意見を十分に反映させるように求めている。「当事者が何に困っていて、どんな支援を必要としているのか、策定委員会で検討した上で、障害者の情報取得や意思疎通に関する具体的な支援内容や市の責任を明示した内容になってほしい」と末森さんは期待する。