【コラム・田口哲郎】

前略

テレビの視聴習慣がなくなりつつあると言われ始めて、ずいぶんたちます。いまは個人が自由に使える時間を可処分時間というそうで、動画コンテンツのサブスクサービス、たとえばAmazonビデオとかネットフリックスがその可処分時間を獲得する激しい競争が起きているそうです。

むかしは可処分というと所得で、個人がお金をどう使うか、企業は市場調査に余念がなかったのですが、時間までも企業が虎視眈々(こしたんたん)と狙っているとなると、文明もゆくところまできたなという感があります。

さて、その可処分時間の話です。ローカルテレビ番組が好きで、テレビをつけているときはほぼテレビ神奈川かJ:COMチャンネルをつけている私のような者でも、動画サブスクを見るようになっています。私の場合はYouTubeです。

テレビ局もYouTube人気はしっかり把握していて、一部の番組はYouTube配信を行っています。でも、YouTubeのおもしろさはユーチューバーの番組でしょう。

私が見ているYouTube番組

私は鉄道が好きなので、鉄道系ユーチューバー、スーツさんの動画をよく見ます。かなり多くのコンテンツを紹介するスーツさんの才能はすごいと思います。そのスーツさんに影響を受けてユーチューバーになったという、ぼっち大学生のパーカーさんの番組も見ていて楽しいです。孤独な大学生の何気ない日常をありのままに見せる趣向が共感を呼ぶのでしょう。

こうしたユーチューバーの番組はついつい見てしまい、可処分時間を費やしてしまいます。新しいコンテンツが次々とあげられるので、視聴が習慣的になります。

さて、こうした人気ユーチューバーの番組もよいのですが、私がこのごろ見ているのは、「舞原学【アニメの美学】」です。東大文学部の美学芸術学専攻の学生さんが、趣味のアニメについて語るというシンプルなもの。アニメにまったく通じてない私は、語られているアニメ作品について予備知識なく動画を見ます。

でも、舞原さんの見方や切り口がとてもおもしろいので、アニメを見てみようという気持ちになります。少々哲学的なテーマでアニメを見る楽しさは、一般向けの番組とはひと味違ったものがあります。アニメはいまや日本文化の大きな柱です。紙の本を読むのも楽しいですが、アニメを精神の涵養(かんよう)のために見る時代が来ているのですね。

メディアは受け手の好奇心や探究心を刺激することで、生活を豊かにするものだと思います。その意味で、このごろのメディアの多様化はいろいろな問題がありつつも、人間社会にとって有益なのかもしれません。ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)