【コラム・入沢弘子】ここ数年、出版業界からの図書館への風当たりが強くなっています。大きく報じられたのは、新潮社・佐藤隆信社長の図書館総合展での発言(2015年11月)、文藝春秋・松井清人社長の全国図書館大会での発言(17年10月)です。

佐藤社長の発言は、図書館が貸出要望の多い本を複数購入する「複本制度」について、これが書籍販売の妨げになっているという内容でした。曰く、「本の売り上げが減っているのは、図書館の貸し出しの増加が一因である。一部の新刊に限って、図書館に1年間の貸し出し猶予を求める。図書館で売れる本を貸し出されると、出版全般が痛んでしまう構造にあることをご理解いただきたい」。

また、松井社長は「文藝春秋社の文庫本の収益は週刊誌より大きく、(全体の)約3割と収益の柱である。文庫市場の低迷は、版元にとっても作家にとっても命取りになりかねない重大事。出版文化を共に支えてくださる公共図書館の方、どうか文庫本の貸し出しをやめてください」と訴えました。

大手2社の社長発言で、苦境に立たされる出版業界の姿が注目されました。公益法人全国出版協会によると、日本の出版販売数は書籍・月刊誌とも1996~97年をピークに減少傾向に転じています。特に文庫本は、消費税が増税された2014年、前年比6.2%減と過去最大のマイナスを記録。その後もマイナス6%が続いているそうです。松井社長の発言もごもっともです。

35年近く前。私が前職の広告会社に入社したころは、新聞、テレビ、雑誌、ラジオの4メディアは活気がありました。それが、インターネットの出現、経済規模の縮小、ライフスタイルの変化などにより、苦戦を強いられています。出版各社は、インターネットと連動した新サービスを提供するなど、社会変化に適応する「未来の形」を探っている状況です。

私は、図書館で借りて読んでみて、購入する価値ありと判断した本(繰り返して読みたい本、手元に置きたい本)は買ってしまいます。周囲の本好きの方々もその傾向にあるようです。

さて、図書館が新刊書やベストセラーの貸し出しを控え、文庫本の貸し出しを止めたら、本を購入する方が増え、出版業界は再び活気を取り戻すのでしょうか。みなさん、どう思われますか?(土浦市立図書館館長)