【コラム・瀧田薫】中国共産党は10月23日、習近平総書記(69)=国家主席=の3期目続投(異例)を正式決定し、同時に党の最高指導部である「党政治局常務委員」(習主席を筆頭に7人)の新メンバーを公表した。内外の中国ウオッチャーを驚かしたのは、新任された4人全員が習の側近で占められていたことである。つまり、習は常務委員会内の政敵を一掃し、党と国家における「習一強体制」の実現に成功したのである。
10年前の第18期党大会において、習は常務委員会トップに就任すると同時に、党内の政敵に対する攻撃を開始した。今回の「習一人勝ち」は、過去10年にわたる熾烈(しれつ)な闘争の結果であると同時に、習が目指す、さらに高い目標を実現するために必要な、より強化された権力でもある。
過去10年、今回を含めて3度の党大会があった。大会ごとに選ばれた常務委員の顔ぶれを通観すれば、習の闘争には首尾一貫した戦略があったことが見て取れる。まず18期大会では、常務委員7人中3人が江沢民派、胡錦濤派が1人、習派は彼自身を含めて3人であった。
つまり、このときは派閥均衡による「集団指導体制」(毛沢東による独裁を2度と繰り返さないため鄧小平が定めた慣例)が機能していた。胡派は鄧小平の改革開放路線を継承し、江派は共産党の古い体質を受け継ぐ保守派、習派はソ連邦の崩壊に危機感を抱き、中国における改革開放の必要性を認めつつ、それに先んじる形での共産党の規律と権力の維持・強化を重視する立場であった。
習は鄧小平の遺産・中国流資本主義経済を共産党の強力な監督・管理下に置かない限り、かつてのアヘン戦争のように、あるいはソ連邦のように、中国が蝕(むしば)まれていくことを何よりも恐れていた。そのため、習は着々と戦略通りの権力闘争を遂行、第19期党大会において、江沢民派を排除し、今回の第20期党大会においては胡錦濤派を一掃して、「習一強体制」の樹立に成功したのである。
一党独裁システムを繰り返し精錬
習の仕掛けた権力闘争は、毛沢東が仕掛けた「文化大革命」と共通する性格をもっている。毛沢東の場合は「走資派」攻撃、習の場合は「鄧小平の改革開放路線継承派」攻撃だが、両者に通底するのは、共産党一党独裁のシステムを繰り返し精錬し直すことに全力を傾注する強固な信念である。
習は今回、チャイナセブンをイエスマンで固めることに成功した。この余勢を駆って、彼が毛沢東のように終身主席として党と国家に君臨する可能性もある。それでは、中国は習の思惑どおり、近い将来覇権国家にまで上りつめるのだろうか?
筆者は今回の習の成功が、中国にとって大きな禍根として振り返られる日が遠からず来ると予想する。今回の党大会を契機として、習の強権的支配が強まり、内外の敵に「団結」して立ち向かおうとのスローガンの下、あらゆる領域で党、国家、そして習主席個人に対する忠誠が国民そして共産党党員に要求されるだろう。しかし、それと同時に、習のプーチン化も始まっている。(茨城キリスト教大学名誉教授)