【コラム・福井正人】最近の宍塚大池では、数年に一度、雨が少なく異常な渇水が起きた次の年に、アメリカザリガニが大繁殖し、水面を覆っていたハスやヒシがなくなってしまう現象が起きています。数年で回復してくるのですが、再び大渇水が起こると、また次の年には、アメリカザリガニが大繁殖するというパターンを繰り返しています。

雑木林のほうでは、カシノナガキクイムシ(カシナガ)が媒介する菌によって、コナラなどの樹木が枯死してしまう問題(ナラ枯れ)が起きています。里山の生態系は、人々の生活様式と密接に結びついています。里山の樹木は建物の資材や燃料として、落ち葉はたい肥として、ため池の水は農業用水として利用されてきました。人々はこれらの資源が枯渇しないように気を付けながら管理してきました。

このような人々の働きかけが、里山のなかに様々なタイプの環境を生み出し、里山の多様な生態系を育んでいました。

ところが、戦後のエネルギー転換、機械化などにより、人々の生活は大きく変わりました。もちろん、それ自体は人々を重労働から解放することになったので良いことなのですが、里山の資源は利用されなくなってしまいました。ため池の水を引かなくても、河川や井戸からポンプでくみ上げて、田んぼに水を入れられるようになりました。

また、電気やガスの普及により薪(まき)は使われなくなり、建材としての樹木も外国からの輸入木材に代わっていきました。農業用水としての価値が低くなったため池では、池の水を抜いてヘドロを抜くなどの管理が行われなくなりました。

そのような状態で異常な渇水が起こると、毎年管理しているときには起こらなかった急激な環境変化が生じ、水の中の生き物のバランスが崩れ、アメリカザリガニの大繁殖のようなことが起こります。雑木林で起こっているナラ枯れも、被害を受けるのは主に老木で、薪炭林の利用がなくなり、老木になるまで伐採されず放置されたことが、被害の急拡大につながっていると思われます。

自然に向き合い、その変化を記録

宍塚の自然と歴史の会では、里山の貴重な生き物を次世代に残すための活動をしています。宍塚大池の外来種を駆除して在来種を保護したり、かつて大池に繁茂していた水草をバットで保存・育成し、環境が整ったときに大池に戻せるようにしていたり、最近では、急速に被害が広がっているナラ枯れの調査を行ったりもしています。

ただ、人々の生活様式の変化にともない、里山への働きかけがなくなってしまった以上、生き物だけが以前の種類のまま残ってほしいと思うのは、人間のエゴではないかと思うときもあります。ナラ枯れによってコナラの老木が枯れていくのも、人間が伐採しないから代わりに生き物が対処してくれているだけなのかもしれません。

一番がっかりするのは、保全の成果が上がらないことにイライラした人間同士が、小さな意見の相違で対立してしまうことです。

正直、私にはどうするのが一番なのか正解が見つかりません。でも、こうして答えが出なくとも、里山の自然に向き合って考えることが大事なのではないでしょうか。また、変わりゆく生態系を記録していくことが大事なのではないでしょうか。みなさんも一緒に考えてみませんか。(宍塚の自然と歴史の会 副理事長)