【コラム・先﨑千尋】森友学園問題に関する公文書改ざんを強いられ、それを苦に自死した元財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さんの妻、雅子さんらの講演会が7月30日、水戸駅前の駿優教育会館で開かれた。この講演会は、旧動力炉・核燃料開発事業団(動燃、現日本原子力研究開発機構)の元職員6人が同機構に損害賠償を求めている訴訟で、原告を支援する団体が主催したもの。
雅子さんは、夫が自死した真相解明を求めて、国と、改ざんを指示したとされる元財務省理財局長の佐川宣寿氏を訴えてきた。この日は、雅子さんの裁判などを支援してきているジャーナリストで元NHK記者の相澤冬樹さんと対話する形で、別室からのオンラインで登壇した。私はそれを会場で聞いた。
雅子さんが起こした2つの裁判のうち、国は、昨年12月に雅子さんの賠償請求を全面的に認める「認諾」の手続を取り、改ざんが行われた経過などは不明のまま、いわば「肩透かし」の手法で国に対する請求を終結させた。残る佐川氏への訴訟は、氏への尋問は行わずに7月27日に大阪地裁で結審し、11月25日に判決が下される。
雅子さんはこの日、佐川氏に2度手紙を書いたが返事はなく、法廷にも姿を見せなかったことを非難し、「私は、夫がなぜ改ざんさせられたのかを知りたいから裁判を起こした。法廷で佐川さんにそのことを証言してもらいたかった。しかし佐川さんは姿を見せなかった。あまりにも悔しい。夫は日頃、公務員は権力を握っている人のためにではなく、国民のために仕事をするのだと言っていた。佐川さんは誇りを持って仕事をしてきたのか。佐川さんが本当のことをしゃべらない限り、私は幸せになれない」と怒りをあらわにした。
国、無慈悲、無機質な組織
この雅子さんの話を聞いて、相澤さんは「佐川さんはこの事件に関わったので、もうエラくなれない。ホントのことを話した方が、気持ちが楽になれるはずだ。ホントのことを話せない佐川さんはかわいそう。哀れだ」と語った。
さらに相澤さんは、7月27日の大阪地裁での雅子さんの尋問の様子を紹介した。その中で雅子さんは、尋問の最後に「参院選の街頭演説中に銃撃を受け死去した安倍晋三元首相の国会答弁がこの改ざんのきっかけになった。黒い疑惑のまま国葬にされるのは安倍さん本人も望んでいないと思う。安倍さん、昭恵さん、佐川さん、そして裁判長、私は真実が知りたい」と述べたという。閉廷後、傍聴席からは拍手が送られたそうだ。
相澤さんは安倍氏の死にも触れ、「死者を悼む。だが、この事件は、忘れられていた旧統一教会と政治家の関係を表に出した。それはよかったことだ」と話したことが印象に残った。
雅子さんと相澤さんのやり取りを聞いていて、本来は国民のためにあるべき国という機関は、結局は無慈悲、無機質で、血の通わない組織にすぎないのだと思った。安倍さんだって佐川さんだって、血が通っている人間であるはずなのに、非情にも雅子さんの声を聞こうとはしない。それはなぜなのか、私にはわからない。(元瓜連町長)