【コラム・奥井登美子】
「今年の夏はゴキブリが台所に出なかったの、お宅はどうですか?」
「ゴキブリ? そういえばいつもの年より少ないかなあ」
コロナで、図書館でも、スーパーでも、どこへ出かけても体温を測っているけれど、その体温よりも気温が高いなどということは今まであまりなかった。
6月末から7月初め、気温が、人間の体温よりも高い日が何日かあった。我が家の庭の山椒(さんしょ)の木に、毎年たくさんイモムシが発生するが、今年は1匹もいなかった。昆虫の世界も、酷暑で、何か変化しているらしい。
熱中症を起こして救急車で運ばれる人が、がぜん多くなってしまった。我が家では居間にクーラーがなかった。クーラーの大嫌いな亭主が許可してくれなかったのだ。しかし、今年はクーラーがないと熱中症になってしまいそうで、とうとうクーラーをつけてしまった。
何か異変が起こっている
どんぐり山の昆虫観察会は、毎年1回、10数回以上続いている。救急係の私は、2~3日前に、刺されたり、かみつかれたら困る、マムシ君とヤマカガシ君とハチなどの下調査に行く。
昨年はコロナの影響で観察会は急きょ中止になってしまった。今年はコロナの心配をしながらも、断固決行することになった。
下調査でヘビはいなかったけれど、ハチの数がいつもの年よりも少なかった。森に住む黄金虫(ゴキブリの仲間たち)も見かけなかったが、あまり深く考えなかった。
観察会の当日は、たくさんの子供たちが来てくれてうれしかった。山に入る前にムシ刺されの注意はするが、毎回、何人かの人がムシに刺されてしまう。今年はどういうわけか、刺された人が1人もいなかった。虫たちも少なくて、しかも、何か元気がなかった。
憧れの国蝶(ちょう)オオムラサキもいなかった。人間は虫たちにも無視されてしまった。酷暑の地獄。人間の世界にも、虫の世界にも、何か異変が起こっている。(随筆家、薬剤師)