つくば市が今年4月の閣議で「スーパーシティ」型国家戦略特区に指定された。7月15、16日には市内の商業施設、イーアスつくばで、市によるキックオフイベントが開かれた(7月15日付)。国に対し、つくば市がアピールした看板事業はインターネット投票だ。スーパーシティって何だろうか。
「3年後(2024年)の市長、市議会議員選挙で、必ずネット投票を導入したい」ー。2021年5月、オンラインで実施された内閣府の国家戦略特区ワーキンググループ(WG)のヒアリングで、五十嵐立青市長は国の委員らにこうアピールした。
国がホームページで公開している議事録によると、「昨年(2020年)市長、市議選が行われたが、投票率は過去最低の51%。20代前半が3割を切っている。70代に向かって投票率が上がっていくが、80代以上が急落して40%を割り込む。市内で高齢化率トップの地域の役員さんにいろいろ話を聞いたところ、投票所まで行けないというのが非常に多い。インターネット投票があれば助かるという声もいただいた。筑波大での調査でも約9割がネット投票を使いたいということだった」と五十嵐市長。
続けて、市内の学校の生徒会選挙で行われたインターネット投票の実証実験の実績を強調し、「スーパーシティ基本構想の住民投票でも、必ず(インターネット投票を)活用したい」とも述べる。
特区の委員は期待、総務省は難色
つくば市をスーパーシティに選んだ、内閣府国家戦略特区の専門調査会が、同市に最も期待するのもインターネット投票の実現だ。国の委員からは「このインターネット投票をぜひできるように、そうすれば非常に大きな目玉になる」(竹中平蔵慶応義塾大名誉教授)、「つくばに関してはインターネット投票、これは何とか実現しないといけない」(原英史WG座長代理)と口々に期待を語る。
ただし公選法を所管する総務省は現時点で、インターネット投票の実施を認めていない。「選挙の公正確保の観点から課題があり、選挙制度の根幹に関わる問題であるため、各党各会派における議論が必要であり、特区として実験的に行うべきものではない」という立場だ。
投票の秘密、買収や強要に懸念
投票所以外の、どんな場所からも投票できるインターネット投票に対しては、投票の秘密が守られる環境が確保できるのかや、買収や強要などの事態が横行するのではないかという懸念がある。
国の委員の高橋滋法政大学教授は解決策として「例えば公選法を改正して、条例によって、選挙事務所で投票のために端末が利用されないよう配慮する義務を選挙責任者に課すことができるようにする、かつ、選挙責任者の違反に対しては連座制を本人に適用する、そして特定の候補者について運動した者については、有権者に対してスマホやパソコンを用いた投票の動作の確認を求め、あるいは確認してはならないとする禁止規定を罰則で設ける等の提案をする、さらには、何人も有権者に対して、スマホ、パソコンを用いた投票の動作の確認を求め、確認してはならないとする規定を設ける等、柔軟な発想、対処方法を示しつつ働き掛けをすべきではないか」などとアドバイスする。
金品をばらまいて票を買うなど金権選挙の摘発が全国各地で無くならない中、買収や強要などの懸念は払しょくできるのだろうか。
つくば市の森祐介部長(当時)は6月議会の一般質問で、なりすましや強要などへの懸念に対し、「技術的に解決できるか検討する」などと答弁。市スマートシティ戦略課はその後の取材に対し、買収の懸念について「買収された本人の意思によって投票しているため、技術的に防止するのは難しい。こうした場合は、罰則を設けるなど法令で対応する方法が考えられる」とし、強要の懸念に対しては「強要は本人の意思によらずに投票を強制されているので、上書き投票(再投票)を可能とするなど技術的に解決する方法が考えられる」とする。
ただし、上書き投票を可能にするためには、1回目にだれがだれに投票したのかを判別できることが前提になる。選挙の基本原則である、だれがだれに投票したか分からないよう秘密を守るという「投票の秘密」を侵すことになってしまう。これに対し同課は「秘密投票との関係もあるので、慎重に検討していく必要がある」とする。(鈴木宏子)