【コラム・瀧田薫】参院選(7月10日投開票)の争点を一つだけ取り上げれば、まず「憲法改正」が焦点であろう。よく憲法改正に前向きな勢力(自民、公明、日本維新の会、国民民主)が議席数の3分の2に届くか否かが話題になるが、それがクリアされれば改正がすぐできるというものではない。4党の憲法改正に対する姿勢、特に憲法9条の扱いに主張のばらつきが大きく、改正の発議に向けて4党間の意見調整ができるかどうか、見通しは立っていない。
もっとも、与党が思惑どおりの安定多数を確保すれば、岸田首相が衆院を解散しない限り、衆参議員の任期満了を迎える2025年まで、国政選挙の予定がない「黄金の3年間」がやってくる。与党内には、国論を二分するような大きな政治課題に腰を据えて取り組めるとの期待があり、発議に至るまで熟議を尽くす時間的余裕に恵まれていることも確かだ。
ところで、現時点で、憲法9条の改正を掲げているのは、厳密に言えば、自民、維新の2党のみである。自民は憲法9条に自衛隊を明記する方針であり、維新は9条に明確に規定すると主張している。公明は9条の1項と2項を堅持する方針であり、別の条項での自衛隊明記についても引き続き検討するとし、党の公約に「自衛隊を憲法上明記すべしとの意見があるが、多くの国民は(自衛隊を)違憲とみていない」との説明をわざわざ付け加えている。
国民民主は、公約で「9条は自衛権の行使の範囲、自衛隊の保持・統制に関するルール、2項との関係の3つの論点から具体的な議論を進める」として含みを残している。他方、立憲民主党は自民党改憲案に反対し早期の憲法改正は不必要としつつ、「国民の権利の拡大についての議論」に限っては積極的な姿勢を見せている。
共産、社民両党はこれまでどおり護憲の立場を貫く。れいわ新選組は、現行憲法の実践のために必要な制度と法の整備を目指すとし、NHK党は改正に関する議論を積極的に促すとしている。
安全保障をめぐる議論が活発化
新聞各社その他の間では、今回の参院選で改憲勢力が3分の2の議席をギリギリ確保するとの見方が有力だが、そうなると、選挙後の参院は少数議席しか持たない政党でもキャスティングボートを握りやすい環境となる。すでに改憲勢力が4分の3を占めている衆院と比較して、参院における意見調整のハードルはそれなりに高くなるだろう。
ところで、選挙とウクライナ戦争が重なったこともあり、憲法改正と表裏の関係にある安全保障をめぐる議論が最近活発だ。ただし、防衛費の増額など数字だけが先行する前のめりの議論はいただけない。専門家の間では、いわゆるハイブリッド戦(情報戦、サイバーなど)への備えを想定し、日本の防衛政策を根本から考え直す時とする指摘がある。
各党とも結論ありきではなく、国家安全保障戦略など、いわゆる3文書の今後の改定にどう対応するか、党内外で調査・研究の機会をつくり、専門部会を立ち上げるなどすべきだろう。(茨城キリスト教大学名誉教授)