筑波大学生存ダイナミクス研究センター(TARAセンター、つくば市天王台、林純一センター長)は16日、クライオ電子顕微鏡施設のオープニングセレモニーを開いた。競争激化する創薬研究で必須となっている構造解析に不可欠な装置で、セレモニーには研究者ばかりでなく産学官の関係者が集まり、研究の加速、利用の拡大への期待を語った。つくばにおける2号機、3号機となる2台がお披露目された。
クライオ電顕は、液体窒素温度条件下(クライオ)でタンパク質などの生体分子に対して電子線を照射し、試料の観察を行うための装置。タンパク質の立体構造を高分解能で決定する手法として、目覚ましい技術革新を遂げている。2017年その開発に貢献した研究者3人にノーベル化学賞が授与された。以来、日本でも関心が広がり、つくばでは2018年4月に高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所に最初の1台が導入された。
タンパク質の構造解析に威力
TARAセンターには、電子を200キロボルトと300キロボルトにそれぞれ加速する2台の装置が導入され、このほど稼働を開始した。国の2020年第3次補正で総額32億円、全国3拠点に6台のクライオ電顕を措置したうちの2台。新型コロナウイルスや創薬研究のための構造解析に向けた基盤構築を早期に実現するのを目的に、日本医療研究開発機構(AMED)が導入先を選んだ。
導入を指揮した岩崎憲治教授らによれば、クライオ電顕は試料を凍結したまま観察することができるため、タンパク質などの壊れやすい生体高分子、特に分子量の大きなタンパク質複合体の観察に適しているという。創薬研究では治療の標的物質に薬が「くっつくか」の見極めが極めて重要で、特に結晶化というプロセスを介さずにタンパク質の立体的な構造解析が可能なクライオ電顕の可能性は大きい。
装置や撮影技術の高度化の一方、測定試料の事前調製に精緻(せいち)な作業と膨大な労力が必要なのが課題だ。タンパク質の構造決定で自動化が実現すれば、下処理などにかかる回数や時間の大幅な改善が期待できる。遠隔化が可能になればパンデミックのような状況でも研究が継続できると見られている。
本格運用は7月から
今回導入の2台はともに日本電子(本社・昭島市)製。セレモニーであいさつした同社、栗原権右衛門会長は「世界でクライオ電顕を手掛けるメーカーは2社しかない。出遅れていた米国社にようやく追いつき、自動化、リモート化で盛り返してきた。わが社がYOKOGUSHI(ヨコグシ)と呼んでいる産学連携のいっそうの推進を図りたい」とした。
KEKの千田俊哉構造生物学研究センター長は「KEKでも今回、実験棟を新設、クライオ電顕を移設した。筑波大、物質・材料研究機構と組んで立ち上げたTCEF(クライオ電顕フィート)チームで、利用の一体的な体制整備を進めたい」とした。つくば地区に研究所を構える製薬メーカーからは「勘や経験に頼っていた探索にビッグデータやAI(人工知能)を活用する時代。クライオ電顕の共同利用に期待は大きい」との声も聞かれた。
岩崎教授は目標として稼働の50%を企業支援に当てたいとする一方、「大学は教育機関なので、学生やインターン、電子光学を志す専門家の研修にも役立たせていきたい」とした。筑波大では6月ごろまではトライアル期間として、7月以降課金しての本格運用を目指している。(相澤冬樹)