【コラム・原田博夫】2011年の東日本大震災による福島原子力発電所事故により、原発の稼働率が大きく落ち込み、20年の電源構成に占める原発の割合は4.3%に低下しています。一方で、太陽光発電も8.5%、水力発電も7.9%、バイオマス発電も3.2%にとどまっています。
こうした状況を打破するために、脱原子力発電・再生可能エネルギー推進を目指して、2017年、「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連、電事連ではありません)が立ち上げられました。会長に吉原毅・元城南信用金庫理事長、顧問に元首相の小泉純一郎氏と細川護熙氏が就き、私は賛同人の1人です。
茨城県内でも数回、小泉氏の「脱原発講演会」が開かれ、多くの聴衆に感銘を与えました。
原自連はこうした啓蒙活動のほか、今年1月27日、フォン・デア・ライエンEU(欧州連合)委員長に、「脱炭素・脱原発は可能です―EUタクソノミー(持続可能な気候変動対策の事業分類)から原発の除外を」と題する文書を、歴代5首相(小泉純一郎、細川護熙、村山富市、菅直人、鳩山由紀夫)名で送りました。
福島県知事、環境大臣、自民政調会長からクレーム
ところが、その中で「…福島第1原子力発電所の事故で、多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ…」と指摘していることについて、内堀雅雄福島県知事と山口壮環境大臣から、風評被害を引き起こすので異議アリ―とのクレームが届きました。高市早苗自民党政調会長も同じ不満を述べています。
この文書を発出したのは、昨年夏以降、EUにおいて、持続可能な気候変動対策(CO2削減)事業に原子力を入れる方向性が明らかになってきたことから、これを阻止すべく、国際世論を喚起するためのものでした。
「…多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ…」のくだりは、文書の中核ではなく、あくまでも、原子力被害の一例としての言及でした。福島県における子供たちの甲状腺がんの高い発生状況は、県が実施している県民健康調査でも明らかで、そのこと自体は厳然たる事実です。
それなのに、「風評被害を引き起こすので言及すべきではない」といった言説こそ、隠蔽工作ととられかねません。
東電福島第1廃炉については、汚染水の海洋放出やデブリの保管施設など、中長期的に取り組まなくてはならない課題が山積しています。地元福島だけでなく、日本国民、韓国や中国など近隣諸国に対しても、科学的な情報を公開することなくしては、この巨大かつ深刻な課題を克服できないでしょう。(専修大学名誉教授)
【はらだ・ひろお】土浦一高卒、慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。専修大学経済学部教授を経て、2019年4月から名誉教授。米スタンフォード大などに留学。公共選択学会会長、政治社会学会理事長などを歴任。著作(編著)に『人と時代と経済学-現代を根源的に考える-』(専修大学出版局、2005年)、『身近な経済学-小田急沿線の生活風景-』(同、2009年)など。現在、土浦ロータリークラブ会員。1948年土浦市生まれ、土浦市文京町在住。