【コラム・古家晴美】新タイトルの「菜園の輪」では、人の緩やかなつながりに注目したい。ここでいう「菜園」は、家庭菜園から直売所に品物を出荷する自家用畑まで含む大まかなくくりだ。

そこで主な生計を立てているわけではないが、食生活の一部に深く組み込まれている「菜園」は、様々な形で「人のつながり」をもたらしている。家族で食べきれない野菜をおすそ分けする友人知人。育て方のコツを教えてくれる畑の隣人。土地を貸してくれる地主さん。そして、家族もつながりの中に入る。

初回は3町歩(3ヘクタール)の稲作を行いながら、トマトやキュウリなど栽培している、市村すみいさん(92)と市村典子さん(65)の菜園を紹介したい。

市村さん宅の菜園は、母屋裏手の長さ50メート、幅5メートル弱の長細い畑と、自宅から少し離れた1畝(せ、1アール)の畑の2カ所に分かれている。筆者は30年近く、様々な菜園のあり方を見てきたが、このように、家の敷地内や近くで、日常よく使う葉菜類や果菜類を育て、少し離れた畑で根菜類を育てる自家用畑は多い。

食卓を鮮やかに彩る野菜

家裏手の畑は、土起こしや果樹の剪定(せんてい)以外は、基本的にすみいさんが、種まきから草取り、収穫までを健康維持のために管理している。ほうれん草や小松菜などの菜っ葉類や小豆、えんどう豆などの豆類、聖護院(しょうごいん)大根が中心だ。

聖護院大根の栽培は「普通の大根が霜に当たったときに備えて…」と言う、すみいさんの配慮によるものだ。もう1つの畑は、典子さんが管理している。こちらでは、夫とともにトラクラーを使用して、自家用の大根と白菜を中心に育てている。

これまで菜園のお話をうかがった方は、70代までの方がほとんどで、1人あるいはご夫婦で複数の自家用畑を面倒見ている方が多かった。70代とはいえ、青年に近いほどの気概と迫力をもって、様々なことに取り組んでいる。

では、80~90代の方はどうか。市村さん宅では、2つの畑の運営管理については、お互いに口を出さず、自分のやり方で野菜を栽培している。無論、何10年もなさってきた畑仕事に違いないが、年を重ねれば、それなりの苦労もおありだろう。

陰で家族を支えながら、信頼され任されることにより生まれる、「やりがい」と「心の張り」が、お年を感じさせぬ肌の艶をもたらしているのだと思う。お互いを見守りながら、2つの菜園、そしてご家族が、緩やかにつながり支え合う。

2つの菜園から収穫された野菜が、市村家の毎日の食卓を鮮やかに彩っている。(筑波学院大学教授)