【コラム・田口哲郎】
前略

謹賀新年。初雪が大雪になった年の初めでしたね。雪が降り積もり、いつもの街が真っ白になり、とても新鮮な景色が現れました。雪でいろいろ大変だった方々もおられると思いますが、純白の光景は心が洗われるようでした。

ひたち野うしく駅前のメタセコイヤの並木はイルミネーションが飾られているのですが、雪が降り始めた夜はなんとも幻想的でした。樹氷のようになった木の枝に光の粒が煌(きら)めき、黒い空に映えていました。白い絨毯(じゅうたん)が異世界に来た感覚にしてくれます。

私は「アナと雪の女王」を思い出しました。映画とともに主題歌のLet it goが大ヒットしましたね。ありのままの〜というサビが印象的です。Let it goを思い出すと、ザ・ビートルズのLet it beも思い出します。こちらは1970年発表ですから、2013年のLet it goの43年前ということになります。

be「ある」からgo「なる」へ

Let it goに時代の流れを感じるのは私だけでしょうか。流行当時、Let it beと比べて、その違いが言われていた気がします。Let it beは苦境にある僕の前に聖母マリアが現れて、「Let it be」という金言を与え、僕を孤独から救うという内容です。Let it beは「あるがままに」とか「身を委ねなさい」と訳されます。

一方、Let it goは「ありのままの 姿見せるの」とか「ありのままの 自分になるの」と訳されました。

ビートルズのLet it beはbeが使われています。beはご存知のようにbe動詞で存在を表します。ですから、訳も「ある」がまま。今そこに存在しているだけでよいという「ゆるし」のようなものを聖母マリアが与えてくれる。そこには静かな肯定感が感じられて、宇宙的な静けさのなかでおだやかに自分に向き合えば、小さな欲望や意地などがどうでもよくなり、心が解放されるのでしょう。

時代は流れ、40年の間に世界は劇的に変動し、日々競争が激しくなっている。日常のストレスも昔とは質が変わっているように思います。Let it goはそれをちゃんと映しとっています。使われている動詞はgoです。これはある人がその場所からどこかへ移動するという意味。ふつうは「行く」と訳されます。自分を新たな世界に解き放て、という意味が込められています。ありのままの自分に「なる」。変わる自分が求められています。

そこに「いる」でよかったbeが、どこかへ行かねばならないgoに変わったわけです。存在から行動へ。

今の世の中「何者であるのか」よりも「何をする者なのか」が重視されます。「ある」ことはもちろん大切です。でも、今はその人がどんな人で「ある」のかよりも、どんなことを「する」のかが見られる。「ある」は簡単には変えられないけれども、「する」はその気になれば変えられる。「ある」を守りつつ、「する」で世の中をよりよく変えていく。

コロナ禍で大変ですが、自然が雪景色でエールを送っているのかもしれませんね。ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)