【コラム・奥井登美子】我が家の茶の間の隅に「年賀状の展示コーナー」がある。頂いた年賀状の中で、いつまでも見ていたい、すてきな作品を展示しておくコーナーだ。毎年、干支(えと)の動物を使った面白いデザインが多い。一昨年はネズミ、昨年は牛の絵。個性的なものが多く、茶の間の話題を提供してくれた。
頂いた年賀状の中から、面白いデザインや愉快な言葉を探し出すのが、私の次の楽しい作業なのだ。関寛之先生の手づくり木版画は、毎年、我が家の展示品中の名品だ。80歳過ぎの人の格調高い手書き賀状にはすばらしいものがある。
しかし、今年の年賀状のエトの虎はなぜか元気がない。コロナ禍で家にいて時間を持て余している人が多いから、手の込んだ虎デザインの作品が集まるのではないかと期待していたが、少しあてが外れてしまった。
自由にのびのび『トラ』イする1年に
なぜだろう? 年賀状には「コロナが早く収まりますように」という、祈りに近いような言葉で願いを書いたものが多かった。年賀状に込める楽しい夢、格調の高い希望を実現できるかどうか―コロナちゃんの跳梁(ちょうりょう)で自信がなくなってしまったに違いない。
世界中の情報がその日のうちに伝わるすごい世の中。しかし、情報の伝わり方の速さが、人間の頭脳のテンポと合っていないのではないかと思う。人間が人間らしさを楽しむ速度はご飯を食べる速度と同じで、その人によって違う独特のテンポが存在する。ただ早ければいいというものではない。
コロナオミクロンちゃんに私も一言。「人類の試練としてのコロナウイルスをトラブルことなく体験し、何事にもトラわれることなく、自由にのびのびとトライして、今年1年、心豊かに生きたいと思います」。(随筆家、薬剤師)